12-2 第一の門のキーマン
インスタントにしては味付けがしっかりした非常食を食べ、再びコーヒーを飲むと、ロイは今までのことを、内容を掻い摘んで話した。
突然起きた石化現象のこと。
予言者であり、毒を盛られて死にかけたニネのこと。
その彼女から言い伝えられている古い口伝の一つを聞き、内容を確認するため、彼女のお師匠様に会いにいくと、口伝に出てくる人物は実在し、実際に助けてもらった話を聞いたこと。
そのお師匠様から預かった金青の剣のこと。
その後、セージを助けたときのことや断層まで穴をあけたこと。
トラックに乗っていた果物や、荷台で寝ていたときに見た夢の内容。
鏡の泉の門の中で預かったディア・マレのラクリマや、第二の門の口伝のことと、シュールから門が五つあると聞いたことを話すと、マーティは頷きながら聞いている。
「これがディア・マレのラクリマだ」
サイドテーブルの引き出しから小箱を持ってきて見せると「この基地に戻ってきたときに持ってた木箱じゃないか。なるほど。これは水晶か? ずいぶんと濃い青色をしてるな」
「しかし、ディア・マレのラクリマがどういう意味なのか解らないんだ」
「ディア・マレとは海の女神の古い呼び名だ。ラクリマは涙」
「よく知ってるな」
「俺の母方が古い言語にまつわる語りべの家系で、代々継承してる言葉だ」
「キーマンたる所以か」
「そうなるんだろうな」
ロイは続けて、各門を管理しているキーマンと呼ばれる人間がいることを話し、その人物が、次の門の鍵となる門の守護獣を象ったペンダントを所有していることを話すと「そのペンダントが第二の門の鍵なんだ」
「そうか」改めてペンダントを見たあと「では、そろそろ例の彼女を紹介してくれ」
「ああ、そうだな。シュールだ。彼女の声は直接頭の中に聞こえるから、話すときは周りに注意してくれ」
「わかった。シュールか。これからよろしく。で、君は一体何者なんだ?」
『さて、何者でしょう』
「教えてくれないのか? ロイも聞いたんだろう?」
「ああ。だけど、教えてくれなかったよ」
「で、どう解釈したんだ?」
「剣は鋼鉄製。いくらなんでも意思を持つわけがない。となれば、何かが宿ってると考えるのが妥当。森の精霊だというあの二人のことを知ってるのであれば、同種と考えていいだろうというのが見解」
『まあ、大きく括ればそうだけどね』渋々同意するので「ということだ」マーティを見ると「わかった」苦笑して残りのコーヒーを飲む。
「実は、一つ問題があるんだ。第二の門がどこにあるのかわからないんだ。口伝によれば、第二の門は「氷の炎の門より入る」とあるが、どういう意味なのかわからない。でも、凍っていようが燃えていようが、どっちにしてもこの星にあるとは思えない。となると、どこか別の星にあることになる。しかし、その星の情報が口伝に書かれてないんだ」
「それなら、もしかしたら、俺が知ってる話が関係してるような気がする」
「何かそれらしい話を知ってるのか?」
「お袋から聞いた語りべの中の話の一つなんだが、その情報かもしれない」
『南の彼方、海の民住まう氷に閉ざされし星があり。年に一度、表と裏が重なるとき、氷が炎に染まりゆく。海の精、指さすほうに、次への門が現れる』
「そこだ! 次の門の場所はキーマンに語り継がれてるのか。で、その星がどこにあるかわかるか?」
「そこまではわからないが、いくつか特徴的な情報があるから、調べればヒットするだろう。あとで調べておく」
「任せていいか?」
「ああ、やっておく。ついでに、セージに剣の絡繰りをうまく話しておく」
「そうしてくれると助かる。悪いな」
「何言ってんだ。ここまで手を貸してくれて、こっちは大助かりだ。少しくらい借りを返さないとな」
「そんな、気にするなよ。実は、他にも問題があるんだ」
「まだあるのか。どんなことだ?」
「君らが住む系星の独立を阻んでる統治者のことだ。この系星をリゾート系として開発するため、有名なリゾート系を、細菌兵器を使って破壊したという話の真相を確かめたいんだ」
「ああ、その事は、さっきの話を聞いて俺も気になった」
「もしその統治者が犯人だったら、石化ウイルスについての情報を入手しなければならないんだ」
「そうだな」
「お互い共通点があるから、協力して事を運びたい」
「その事は、俺からアルバスたちに話しておく」
「石化犯人が例の統治者で、石化したものを元に戻す方法を入手できたら第二の門へ行くかどうか考えないといけないけど、まずは独立問題を片付けなければならない。しかも、成功という形でだ」
「力を貸してくれるというのであれば、前向きに考える」
「ぜひ、そうしてほしい」




