39-1 重い鍵
マーティは次の日の夜遅くに戻ってきた。
「お帰り。ずいぶんと早かったな」
「一度通ったところだから、最短で行けた」
いつもの席に座ると、年代物で中位の長方形の箱をテーブルに置く。
「これなのか? 鍵が入ってる箱にしてはずいぶん大きいな。エッ、なんでこんなに重いんだ?」見掛けによらず重い箱を持つと、側面に小さな鍵穴があいているのに気付き「まあ、そうだよな」
「その鍵は夫人が持ってるんだろう?」
「そうだと思う。早速明日、夫人に連絡して持ってくよ」
「俺も一緒に行っていいか?」
「いいんじゃないか。連絡するときに話しておくよ」
「マーティ、お疲れ様」バーネットがノンカフェインのお茶を、アニスがクッキーを持ってくる。
「二人とも、まだ起きてたのか」
「あんな話を聞いたら、鍵を見るまで眠れないわよ。はい、夜遅いから」カップをマーティの前に置く。
「これ、鍵?」アニスがロイの前に置いてある長方形の箱を見る。
「鍵が入ってる箱だよ」
「開かない?」
「ほら、鍵が掛かってる」
「開かない?」
「鍵がないからね」
「……そう」残念そうなアニス。
『マーティ、マロウに会ってきた?』シュールが聞くと「寄ろうと思ったんだが、余分な燃料を積んでなかったので、行けなかった」
『やっぱり行けなかったんだ』
「どういう意味だ?」
ロイがさっきシュールと話したことを掻い摘んで話すと「俺も、なぜあの観光船のことがわかったのか気になってたから、行こうと思ったんだが、そこまで戻ることは許されてなかったらしい」
「でもこれで、ますますこの鍵が私たちの旅に関係してる確率が高くなったじゃないの」目を輝かせるバーネット。
「まだ文献を見るまでわからないよ」
「それはそうだけど。早くその文献を見たいわ」
『でもさ。その文献を見るには、仕掛けを解かないといけないんだよ』
「そうよね。どんな方法なのかしら?」
「それは明日、婦人に見せてもらってからだよ」
『一体、何が書いてあるんだろうね?』明日が待ち遠しいシュールだった。
次の日の午前十時過ぎ。
作戦会議室でのミーティングが終わり、アニスとバーネットが仕事場へ向かった後、ロイとマーティは会議室に残った。
「ロイ、例の夫人に連絡したか?」
「ああ。今日の十一時過ぎに訪ねることになった」
「俺のことは?」
「マーティにお礼が言いたいと言ってたよ。なんといっても、最初に助けにいったのはマーティとアニスだからね」
「礼なんかいい」
「早く文献が見たいんだろう?」
「そうだ」
そこへ、珍しく王女が顔を出した。
「ロイ様」
「ああ王女、どうしました?」
「あの、わたくし、今日ケーキを焼きますの。チョコレートケーキですわ」
『ハァ? 王女が料理ぃ?』シュールがすごい言い方をするのでロイたちは苦笑すると、食べさせられるのだろうと予測するマーティが「一人で作るんじゃないんだろう?」と確認する。
「アニスさんに教わりますの」
「では、まともなものができるな」
「マーティ」ロイが注意すると「期待なさっててください」めげない王女。
『私も、出来上がったものを見てみたいな。黒焦げになってるかもしれないヤツ』
シュールがまた意地悪く言うと頷くマーティ。
ロイも最悪、硬くてコーヒーで流し込むかもしれないと予測するが「ケガしないように気を付けてください」声を掛けると「ハイ! 頑張りますわ!」笑顔で答え、嬉しそうに出ていく。
「念のため、胃薬を用意しとくか」
「マーティ」
「料理の「り」の字も知らない王女が作るんだぞ。どんなものを食べさせられるか、わかったもんじゃないだろう」
「できたのを見てみなきゃ、わからないだろう?」
『ずいぶんと王女の肩を持つジャン』不機嫌になるシュール。
「別に肩なんか持ってないよ。見もしないうちから決め付けるのは良くないと言ってるんだ」
「では、見てから決めよう」しかし、胃薬は用意しようと思っているマーティだった。
その後、艦のことをエルに任せ、ロイとマーティは、ティステル夫人が入院している病院へ向かった。




