12-1 第一の門のキーマン
アラーム音で目が覚めると小箱をサイドテーブルの引き出しにしまい、剣を持って部屋から出ると「腹減ったな。そういえば今朝方、果物を食べただけだった」
どこへ行けば食事ができるのかわからなかったので、指令室へ行けば誰かいるだろうと思い、通路を歩きだす。
その指令室では、中央テーブルでマーティとアルバスが何やら打ち合わせをしていた。
「マーティ、脚の調子はどうだ?」
「ン? ああ、変わらないな」
「そうか。しばらくは仕方ないか」
「そうだな。ところで、昼飯は食べたか?」
「それなんだけど、どこに行ったら食事できるかわからなくて、聞きに来たんだ」
「会議室に非常用食料が置いてある。俺もこれから行くところだから、案内する」
指令室から出てマーティの歩調に合わせて歩いていると「まだその剣について説明してくれないのか?」
「ああ、実は、ちょっとした仕掛けがあるんだ」
「仕掛け? 太陽光電池でも仕込んであって、スイッチを押すと光りだすとかいうのか?」
『ウーン、さすがに電池は入らないよ』
「誰だ!」辺りを見回し「変だな。今、少女の声がしたんだが、空耳か?」
「……さすがに電池は入らないよ、と?」
「……ロイが言ったのか?」気味悪そうに見るので「僕じゃない。というより、なぜ聞こえるんだ? セージを起こしたときは聞こえなかっただろう?」
「セージのとき? ああ、その剣が光ったときか。いや、少女の声は聞こえなかった」
「シュール。何かしゃべってみな」
『剣の仕掛けは私がやったの』
「ちょっと待ってくれ」固まるマーティ。
「理解する時間が必要だろう?」
「どうなってるのか、説明してくれ」
「説明前に、昼飯を取りにいかないか?」
「エッ? ああ、そうだな」
二人は会議室へ行くと、小袋に入った非常用食料を数個と紙の深皿をとり、ロイの部屋へ向かった。
中に入るとマーティは居間のソファに座り、ロイはポットとコップを二つ持ってくると、中身をあけた深皿にお湯を入れ、できあがるのを待つ間にコーヒーを淹れる。
「ロイはブラックか。俺はミルク入りだ」
コーヒーを飲み「話を聞く準備はできた。さっきのことを説明してくれ」向かいのロイに話を振ると「説明する前に、なぜ急に声が聞こえるようになったのか理由が知りたい。セージのあの時から今までで、何か変わったことはなかったか?」
「変わったこと?」腕を組んで考えると「変わったことといえば、さっき妙な夢を見て、変わった物を貰ったことだな」
「夢? どんな?」
「少年と少女が出てきて、二人に案内されて森の奥にある石の門へ行った。奥に二本の太い石柱が立ってるんだ」
「鏡の泉の門だ」
「知ってるのか?」
「僕もそこへ行ったよ」
「では、妙な入り方をするのも知ってるな?」
「ああ。自分の顔にのめり込むのが大変だったよ」
「俺もだ。あんな体験は二度とゴメンだ」ウンザリした顔をすると「中に入った後、俺は右側の部屋へ案内されたが、ロイはどこへ行ったんだ?」
「僕は正面の出入り口から廊下に出て、右奥の部屋まで行ったよ」
「そうか。別の部屋に行ったのか。俺が入ったのは控えの間らしい小部屋で、中央に一角獣の像が立ってた。そのとき少年のほうが」
「グリファスのミルだよ」
「グリファス? セージが会った少年か? そうか、彼が例の少年か。では、少女がもう一つのほうに出てきた子か。なるほど。で、その少年、ミルだったな、が像の前に立って、額の角に掛けてあるペンダントを指し『あのペンダントを取って』と言うんだ。像は俺の肩くらいの高さしかなかったので容易に外せたんだが、続けて『それの持ち主は兄ちゃんだから、絶対なくさないように持ってて』と言われて受け取ったのがこれだ」
ポケットから出てきたのは、右を向いた一角獣のペンダントヘッドだった。
『アーッ! 第二の門の鍵だ!』シュールの声が頭の中に響く。
「マジかよ。そんな所に置いてあったとは思わなかった。ところで、ミルに一角獣の目を見るなとか言われなかったか?」
「いや、そんな事は言われなかったぞ」
「そうか」
「なぜそんな事を聞くんだ?」
「いや、その事はあとで話すよ」
テーブルに置いてあるペンダントヘッドを改めて見ると、シルバーのような光沢に、瞳の部分に薄紫色の宝石らしきものが埋め込まれている。
「きれいだな。それに、かなり高価そうに見える」
「細工も緻密だから、結構な値がつくだろう」
「だろうな。では、話の続きを聞かせてくれないか?」
「ペンダントをもらったあと、ミルが『兄ちゃんはこれからある人と旅に出るんだ。その人とはすぐに会えるから、このペンダントを見せて』と言うと踵を返し、部屋から出ると例の鏡を通って外へでた。向き合うと、なぜか二人ともホッとした顔をして『間に合ってよかった』と聞いたところで目が覚めた。なんだ夢か、と思ったら、このペンダントを握ってた」
「なるほど。キーマンであるマーティと一緒にいるのがわかったから、あえて僕に言わなかったのか」
「キーマンとは俺のことか?」
「そう。そのペンダントの持ち主のことだよ」
「どうやら俺が会わなければならない人物とは、ロイのようだな」
「ああ、僕だよ」
「それなら聞かせてもらおうか。俺が旅に出なければならない理由を」
「そうだな。シュール、彼には話してもいいだろう?」
『もちろん。第一の門のキーマンだもん』
「でも、その前に腹ごしらえしないか?」テーブルにある深皿を指す。




