38-2 三枚の鍵
「鍵が精霊界の物だとしたら、僕たち同様、内乱は起きないはずだろう?」
『アッ、そっか!』
「だから、夫人が持ってる鍵は、僕たちと関係ない物かもしれない」
『でも、何か絡繰りがあるかもしれないでしょう? 文献だって謎めいてるんだし』
「まあね」
『でも、何か引っ掛かってるんだ』
「なぜマロウは、あの観光船に乗ってる人達を助けろと言ったんだろう?」
『それは、生き残ってる人がいるかもしれないから、と言ってたんでしょう?』
「谷の中には宇宙船の残骸がいくつもあって、救出された痕跡がなかったとマーティが言ってた」
『それは、私たちのように、無事な艦が通らなかったからでしょう?』
「そうかもしれないけど、救出された痕跡がなかったということは、今までマロウたちは何もしてこなかったということだ。なのに、どうして今回、助けろと言ったのか?」
『それは……』
「それに、マロウたちは、僕たちが谷へ入ってきたことを知らなかった」
『そういえば、マーティたちが偵察機で谷底へ降りてったから、わかったんだっけ』
「ということは、彼女たちには、誰が谷へ入ってくるのかわからないことになる。上で何が起きてるのかわからない。だから遭難した船を助けなかった。とすると、あの観光船が遭難してることを知ってるはずがないんだ」
『アッ!』
「なぜ彼女は知ってたんだろう?」
『でも、彼女たちは谷の見張り役だってアニスが言ってたでしょう? シーホリーにそう紹介されたって。だったら、中へ入ってきた船はわかるはずだよ』
「しかし、僕たちのことは知らなかった」
『……そうだね』
「あの中で無事でいられるのは、精霊界の住人か精霊界の物を持つ者だけ。そうでない者はみんな狂って自滅してしまう。だから見張る必要が無いということか? 精霊界に繋がりがあって、尚且つ、あの場所を知ってる者は、入り方を知ってるらしいからな」
『そういえば、コストマリーが、許可を取らずに入ってしまったって謝ってたね』
「だろう?」
『じゃあ、どうしてあの観光船のことを知ってたんだろう?』
「考えられるのは、あの船にマロウたちを呼ぶ何かがあったからだ」
『何かが?』
「そう。でなければ、あの観光船だけ助けろと言うのはおかしいよ。もしかしたら、遭難してる他の船にも生存者がいるかもしれないのに、その事には触れなかった」
『ねえ、マーティに連絡して、マロウに聞いてもらおうよ』
「僕もそうしようと考えたけど、たぶん無理だろう」
『どうして?』
「僕たちには戻ることが許されてないと前に話したことがあるだろう? だから、きっとマロウたちの所へは戻れないと思う」
『そんなの、連絡してみなきゃわからないよ。それに、マーティはクレイモアの谷へ戻ってるんだよ』
「谷の中に入ったら、外と通信ができないだろう?」
『アッ、そっか』
「もっと早くにわかってればよかったけど、もしかしたら、マーティも気付いてるかもしれない」
『そうだね。でも、なんでマロウは詳しく教えてくれなかったんだろう?』
「詳しいことはわからないのかもしれない。ただ自分たちを呼ぶものがあって、そこまで行けないから僕たちに頼んだ、ということだろう」
『そうかもしれないけど、もしそうだとしたら、何が呼んだんだろう?』
「それは、鍵を調べてみたらわかるだろうね」
『それと、文献もね』
「そうだな」
『その文献、何も書いてないんだよね』
「バーネットが言ったとおり、何か絡繰りがあるんだよ」
『その絡繰りだけでも、マロウに聞ければいいのに』
「彼女は知らないと思うよ」
『そんなこと、聞いてみないとわからないよ』
「無理だよ」
『どうして?』
「その絡繰りは、僕たちが解かなければいけないものだからだよ」
『私たちが?』
「尋ね人は僕たちだからね」
『尋ね人か』
「とにかく、文献を見れば何かわかる。あとのことはそれからだよ」




