36-1 もう一つの難関
次の日。
艦の修理に一ヶ月かかると報告がきた。
作戦会議室。
いつものメンバーが顔を揃えている。
「ちょっと時間がかかり過ぎるな」ロイがタブレットに送られてきた報告書を読むと「先を焦ることはない」他の報告書に目を通すマーティ。
『ダメ! 早く第四の門へ行くの!』すかさず抗議するシュール。
「肝心の艦が動かないんだから、仕方ないだろう?」
『ブウ!』ふてくされてしまった。
「さて、この先の航路について話しておきたいんだが、いいか?」マーティが見ていた報告書を保存して、調べてきた映像を中央テーブルの3Dモニターに出すと「頼む」ロイが手元のタブレットのデータを保存する。
「では、資料を送信する」全員にデータを送ると「一ページ目を見てくれ」説明を始める。「クレイモアの谷を抜けたので、航路は最初のプランで進むことになる」
「ということは、幻想の星の近くを通るのか」
「そうだ」
3Dモニターには、クレイモアの谷を含む、この星域であるコンファインゾーンが映っている。
「じゃあ、シールドを用意しないといけないな」
「さっき、物資管理部のベルガモットに頼んだ」
「手に入りそうか?」
「ああ。この星にあるそうだ」
「幻想の星、幻覚、見える、でしょう?」
「そう報告されてる」
「人によって、見えるもの、違う、書いてある」
「無意識に押しこんだ感情や忘れてたものが、映像となって見えるそうだ」
『ヘェ、何でだろう?』考えるシュール。
「確かに、人によっては危険ね」バーネットが考え込むので「どうして?」アニスが聞き返すと「平凡な生活を送ってきた人は、忘れたものを思い出したり、忘れてた感情を思い出しても、自分で意思をコントロールできる。でも、そうじゃない人だっているでしょう? 例えば、誰にも言えない秘密を持ってて、その事が映像として目の前に現れたら、不安や恐怖に襲われて、何をするかわからないわ」
「その事によって起きた事故も、たくさん報告されてる」資料を見るマーティ。
「人は誰でも、多かれ少なかれ知られたくない秘密を持ってるからね。
思い出したくないことや忘れたいこともある。
それが、映像というリアルな状態で見えるんだ。
平常心を失ったとしても、おかしくないよ」
分析するロイも考え「それで行方不明者がたくさん出たとしても、一応、納得はできるね」
「でも、この数、多過ぎると思うわ。二万人というのは半端な数じゃないわよ」
「それは僕も気になってる。マーティ、その点は調べてあるんだろう?」
「調べたが、原因はわかってない」
『原因がわからないの?』驚くシュール。
「二万人というのは大まかな数字だろう? ちゃんとした数はわからないのか?」
「船ごと行方不明になってるものがあるからな」
「船ごと? その船はシールドを張ってなかったのか?」
「いや。専用のシールド装置を乗せてない船は、通行許可が降りない」
「じゃあ、シールドを張ってても、安全かどうかわからないということじゃないか」
「無いよりマシ、という程度だそうだ」
「エエッ!」不安になるアニスとバーネット。
『クレイモアの谷より大変じゃん!』大声を出すシュール。
「マズイぞ。これじゃ、先へ進めないじゃないか」頭を抱えるロイ。




