35-1 ボリジ星
次の日のお昼過ぎ、レジーナ・マリス号はボリジ星のスペースエアポートに着陸した。
ここで、通報を受けて待機していた救急隊員にケガ人を引き渡し、警察に事情を説明する。
「クレイモアの谷を通過してきたんですか!」
「どうやって!」
「あの谷を無事に通過できた宇宙船は、今まで一隻もないんですよ!」
話を聞いて耳を疑う警官たちが、すごい勢いで聞いてくる。
「僕たちにもよくわからないので、説明できないんですよ」彼らの勢いを押さえながらロイが答えると『妖怪が乗ってたから無事だったと言ったら?』シュールがトンチンカンなことを言うので(そんなアホなことが言えるか!)心の中で言い返す。
警察は、イノンドたちは大ケガを負っているのに、ロイたちが無傷だったことに納得がいかないらしく、しつこく聞いてきたが、イノンドがどう説明したのか、その後は何も言ってこなかった。
そして、バーネットを含む医務局員たちは引き渡したケガ人と一緒に病院へ行き、各人の診察データを見つつ引継ぎをおこない、レジーナ・マリス号は本格的に修理するため、ドッグへ運ばれた。
イノンドたちが乗っていた二隻の護衛艦もドッグへ運ばれ、ケガをした管理局員たちはここで艦を降り、連絡を受けて派遣されてきた交代要員と代わるため、病院で引継ぎを行っている。
「艦を降りた彼らはどうなるんですか?」状況の説明にきたイノンドに聞くと「ケガの具合によりますが、特別休暇が出て自宅待機になるでしょうね」
「そうですか。ゆっくり休んで、早くケガを治してほしいですね」
「そうですね」
「イノンドは大丈夫なんですか?」
相変わらず、包帯やら絆創膏を付けている姿は痛々しい。
「私は、降りろと言われても降りませんよ」
「でも……」
足を引きずって歩く姿を見ると心配になる。
「大丈夫です。ここまで来たら、降りることはできませんよ」
「ご家族が心配されますよ」
「うちのヤツは諦めてますから」
「またそんなこと言って。ご家族がどれだけ心配されてるか」
「いつもこうですから」
「そうだ、これ」小ビンが付いたペンダントを渡す。
「これは何ですか?」
「お守りです。いつも身に着けておいてください」
『いいなあ』シュールが羨ましそうに呟く。『私も早くほしいなあ』
「きれいな細工のビンですね」
「うちのオリジナルです」
「ああ、刻印が入ってますね」小ビンの底に貼られているシールを見る。
「中の液体をこぼさないようにしてください」
「この液体は何ですか?」
「幸せをもたらしてくれる、特別な液体です」
「ハア、変わった液体ですね」
「稀少品ですから、他の人に話したりしないでください」
「そんなに価値のあるものなんですか?」
「ええ。すごい効き目があるそうです」
「そうですか。わかりました」首から下げると、左手首に填めているマーティのブレスレットに気付き「これをお返ししないといけませんね」外すとロイに渡す。
クレイモアの谷の中にいたとき、出発する前に再び各艦の責任者にブレスレットを渡していて、ロイのブレスレットは先に戻ってきていた。
「これもお守りだとマーティが言ってましたが」
「すごい効き目があったでしょう?」
「魔法が掛かってるみたいでした」
「掛かってるんです」
『アハハハハッ!』ロイが真剣に言うので、おかしいらしい。『呪文を考えなきゃ!』大笑いのシュール。
「またまたそんなこと言って、私を揶揄うのはやめてください」苦笑するイノンド。
「揶揄ってなんかいませんよ」
「まあ、不思議なことは確かですけど。この絡繰りは教えてもらえないんでしょう?」
「……すみません」苦笑すると「そうですか。困りましたね。夜、考えてしまって寝られないんですよ」
「羊の数を数えてください」
「それではますます眠れなくなりますよ」




