29-1 知られざる花園
船は花畑の真ん中にある窪地に着陸し、ハッチから出ると甘い香りが充満していた。
どこまでも続く花畑を見て「一体、いくつ願いごとができるんだろう?」
『ロイ、みっともないよ』シュールが注意する。
「とても、大きい、花」アニスとバーネットが釣り鐘の花を見る。
『アッ! 雄の花だ!』シュールが少し離れたところに咲く花を指さすので「ヘェ、雄の花は横に広がるんだ」ロイが傍へいく。
その時『ようこそ、尋ね人の方々』みんなの前に一人の女性が姿を現した。
『彼女がここを管理してるサーナよ』紹介するコストマリーが『先程は失礼しました。改めて入園許可を申し込みます』
『その声はあの時の。ハイ、許可致します』
『サーナ、紹介しよう。彼が尋ね人だ』シーホリーがロイを紹介すると『お一人だけ剣をお持ちなので、すぐにわかりました。その剣がラディウス・ソリッシュですね? クレイモアの谷へようこそ』
「お邪魔します。早速で申し訳ないんですが、伺いたいことがあるんです」
『どんな事でしょうか?』
「七年前に、雌のフォーテュムを持ち出した者がいると思うんですが、覚えてますか?」
『依頼された日か、フォーテュムの株を見せていただければわかります』
「株ならここにあります」ポケットから赤いビロードの布で包んだ株を取りだすと「持ってきたのか?」マーティが株を見る。
「相棒がいないと増えないらしいから、かわいそうだろう? だから、返そうかと思って持ってきたんだ」
『まあ! あなただったの!』嬉しそうにサーナが近寄ってくる。
「さっき、株を見たら誰が持ち出したのかわかると言いましたよね? これでわかりますか?」
『もちろんわかります』
「本当ですか? で、誰が持ち出したんですか?」
『これは、ある官庁から来た依頼で出したものですが、途中で行方不明になってしまった株です。無事でよかったわ』
「どこの官庁ですか?」
『それは、人間界の官庁ではないので、詳しくはお答えできないんです』
「では、いつ行方不明になったんですか?」
『依頼主の官庁に着く前です』
「配送途中で行方不明になったんですか?」
『行方不明というか、途中で別の植物にすり替わっていたんです』
「すり替わっていた? では、配送した者がすり替えたんでしょうか?」
『いえ。それはあり得ません。なぜなら、配送は私たち声の精霊であるサーナと同種の、旋律の精霊で組まれた配送チームが依頼人まで届けているからです。それに、今までこんな事は起きたことがありません。なので綿密に調べたんですが、いつすり替わったのかわかりませんでした』
「そうなんですか……」
『でも、消息がわかってよかったです』安堵の表情で株を見る。
「そんな経緯があるんでしたら、お返しします」彼女に株を差し出すと『いえ、まだ受け取ることはできません』押し戻し『まだ依頼期間が終わっていませんから』
「依頼期間ですか?」
『そうです。この花は与えた期間を過ぎないと、ここに戻せないんです』
「なぜですか?」
『それは、ここから貸し出すとき、ある処置を施すのですが、依頼期間を過ぎないと、その処置したものが消えないからです』
「ある処置どんなことですか?」
『それは、交配を遅らせる処置です』
「なるほど。よそで増やされたら大変なことになるからですね?」
『そうです』
「でも、依頼期間内に戻ってくることもありますよね? その時はどうするんですか?」
『ほとんどの場合、契約期日どおりか期間延長を依頼されるのですが、稀に期間前に戻ってくることがあります。その時は期間が過ぎるまで、特別室で保管します』
「途中で期間を変更することはできないんですか?」
『できません』
「そうなんですか」
『とにかく、絶対に途中で枯らさず、期間を満了させてからここへ戻してください』




