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ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~  作者: 夏八木 瀬莉乃
第七章 宇宙の難関
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23 谷の底に咲く花

 

『もちろんだよ。影の森に住む金細工師ソレルを、精霊界で知らない者はいないよ。腕の立つ職人だからね。彼の作品は一目でわかるよ』

「そんなに有名なのか」


『彼の作品は、滅多なことでは手に入らないほどの稀少品なんだよ。ブレスレットは影の森の精霊から貰ったんだろう?』

「そうだ」

『彼は人前に出てこないからね』


「影の森、精霊。かわいい、男の子、女の子、だった、でしょう?」

「そうだ」

『あの子たちが尋ね人を判断するんだよ』

「判断?」

『そうだよ。確かめる、と言ったほうが合ってるね』


「尋ね人は誰が決めるんだ?」

『なんだって?』

「誰が尋ね人を決めるのかと聞いたんだ」

『それは……私たちが答えられる質問ではないね』

「またそれか。わかった」


『ところで、わかってると思うが、その管理局の人をここへ連れてきてはダメだよ』

「わかってる。心配するな」

『そういえば、コストマリーがいないのはなぜかね?』

『出られないからよ』ふてくされた声がする。


「出られないということは、まだペンダントの中なのか?」マーティが聞くと『そうよ』と答えるのでペンダントヘッドを出すと、銀色に光っていた。


「どうした?」

『そこに、私が出られる場所がないのよ』

『確かに。君はこの上に乗れないからね』納得するシーホリー。

「どうして?」アニスが聞くと『私は掴まることができないのよ。そんなツルツルした狭い場所に出たら、滑り落ちてしまうわ』

「そう、言われて、みれば……」


 戦闘機のような偵察機の上では、シーホリーのように掴まることができなければ落ちてしまう。


『今回は諦めるしかないね』

『そのようね。私はペガサスじゃないから。足に吸盤(きゅうばん)でも付いてれば出られたんでしょうけど』

『それでは、歩くのが大変だよ』苦笑するシーホリー。

『ああ、それもそうね』


「悪いな、コストマリー」声を掛けるマーティに『気にしなくていいわ。こうやって話ができるだけでも貴重だもの』

『確かにそうだね』頷くシーホリー。


「ところで、谷底は花畑の他に何があるんだ?」

『他には何もない。全部花畑だよ』

「全部? それはすごいな」


『その窓は開かないのかい? 外は花の香りでいっぱいだよ』と言われてハッチを開くと、ヘルメットを取るアニスが「風、ある。ワァ、いい香り」微かな風が甘い香りを運んでくる。


「この香り、どこかで()いだことがあるぞ」


『本当かね? 思い違いじゃないのかね? それは有り得ないことだよ』

「記憶違いじゃない。確かに、どこかで嗅いだことがある」

『いや、それは絶対に有り得ないことだよ。人間がこの香りを嗅ぐことはできないはずだからね』

「どうして、私たち、嗅ぐこと、できない?」

『それは、人間界に存在しない香りだからだよ』


『この花は、精霊界のこの場所にしか生息していないのよ』コストマリーが説明しはじめる。

『しかも、生息場所がここだということを知ってる者は、ごく(わず)かしかいないの。

 持ち出すには厳しい審査があるから、私たちでも、余程のことがない限り、この香りを嗅ぐことができないのよ。

 だから、あなたが知ってるはずがないの。

 この花の香りを、嗅ぐことができるはずないのよ』


「思い出した。そうだ、あの時に嗅いだんだ。精霊界にしか存在しない花。確か……フォーテュム、とか言ったんじゃないか?」


『なぜ花の名前を知ってるんだね!』驚くシーホリーとコストマリー。


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