19 不幸中の幸い
二日後。
レジーナ・マリス号の応急修理が終わり、ケガをしていた三隻の護衛艦のクルーたちも奇跡的に死者が出ることはなく、少しずつ落ち着いてきていた。
「重体だった二人はなんとか峠を越えたって。バーネットからメールがきたよ」安堵の表情を浮かべるロイに「ギリギリだったね。でもよかった」エルも緊張がほぐれる。
修理不可能な護衛艦で徹夜で対応後、麻酔ガスから覚めたクルーの移動の手配などで忙しかったため、エルも数時間前まで自室で仮眠を取っていた。
「予定通りに修理が終わってよかった。次は護衛艦の修理だな」ロイが修理リスケジュールを見ると「修理不可能な護衛艦のパーツをかなり使えるらしいから、予定より早く終わるだろうって作業班の班長が言ってたよ」手元のタブレットで進行具合を確認するエル。
「それは不幸中の幸いだな」
さらに二日後の午後三時。
役目を終えた護衛艦が谷底へ落ちていく。
ロイ、マーティ、そして、イノンドを含む護衛艦に乗っていたクルーたちは、それぞれの場所で、小さくなっていく壊れた護衛艦を敬礼で見送った。
その日の夕食後、数日ぶりに四人がリビングに顔を揃えた。
「アニス、バーネット、お疲れ様」ロイが労うと「とにかく、死者が出なかったのが奇跡ね」肩を叩くバーネット。
「重体者の容態はどう?」
「さっき意識が戻ったそうよ。体調が落ち着くまで、二・三日は集中治療室から出られないけど、一応安心ね」
「そうか。よかった」本当にホッと胸を撫で下ろす。
「イノンドも、やっとゆっくり寝られそうね」
彼はこまめに、重体者の容体確認連絡をバーネットに入れていたそうだ。
「彼らしいな。そうだ、ベッドで寝るようメールしておこう」携帯を出すロイ。
「それにしても、麻酔ガスで大半の人を眠らせたのは正解ね。もしそうでなかったら、イノンドの艦ももう一つの護衛艦も、きっと助からなかったわ」
「そうだな」同意するマーティが「そういえば、残ってた海賊たちはどうなった?」
「中に入った奴らは全滅したと思うよ」
『あのエバってた総長はどうなっちゃったんだろうね?』話に入ってくるシュール。『艦と一緒に沈んじゃったかな?』
「エバってた総長? 誰のこと?」バーネットがロイを見ると「襲ってきた海賊の頭だよ。五代目とか言ってたな」
「海賊も代々受け継がれてるのね」ヘェ、という顔をする。
「シュール、起きてた?」と聞くアニスに『うん』と返事をすると「そうね。ロイと一緒、だから」
「ところで」改めて声を掛けるバーネット。「この中が精霊界と関係あるらしいと言ってたけど、どう関係してるかわかったの?」
「いや、まだわからないんだ」
「そうなの。もしかしたら、この中に門があるかもしれないわね」
「どんな?」
「それはわからないけど、精霊界と通じてる門がたったの五つしかないというのは少ないと思うのよ。だって、宇宙はとても広いでしょう? だから、私たちが探してる門以外、別の門があったとしても、おかしくないと思うわ」
「なるほど。確かに一理あるね」




