16 選択の合否
一段落着いたのでコーヒーを入れにサーバーへ行くと、隣のケースに入っているアニスが焼いたクッキーを数枚取り、小皿に置くと、いつもの中央テーブルの席に座る。
『ロイ。修理不可能になった護衛艦に乗ってる人達、ひどい状態だったね』シュールが話し掛けてくる。
「きっと、何名か犠牲者が出ただろう……」頭を抱えるので『ロイのせいじゃないよ。あの場合、この中に入らなかったら、みんなやられてたんだから』
「だけど、他に方法があったかもしれないだろう?」
『どんな方法があるの? こっちは四隻なのに、向こうは何隻いるのかわからない状況だったんだよ。一斉に攻撃されたら、みんな助からなかったよ』
「……そうだな」
『この中に入ることが、一番の最善策だったと思うよ』
「僕もそう思いたいよ」
『そう思っていいよ!』
「しかし……」
『誰もロイを責めたりしないよ!』
「僕が責めるよ」
その時、タンジーが電気室の修理報告にきた。
作業班からの報告によれば、メイン回路は無事だったものの、各エリアへ電気を送るための中継マシンが破壊されており、修理には最低でも二日は掛かるということだった。
「予備マシンに接続すれば、すべての電源が止まることはないそうです」
「では、必要なところ以外は、直るまで止めておこう」
「すぐ指示します」
タンジーが出ていくと『自分を責めるのはあとにして、今はこの状況をなんとかして、谷から出られるようにするほうが、生きてる人達を助けるほうが先だよ』
「わかってる。ありがとうシュール」
ロイは頭の中を切り替えるとテーブルの下からキーボードを出し、テーブル中央に3D映像を出すと、右舷の護衛艦にいるマーティに通信を送る。
サブ通信室のマーティが映ると「艦の状態はどうだ?」
“かなり攻撃を受けてあちこち破損してるが、何とか持ちそうだ”
「クルーの状況は?」
“意識不明者が二人いる”
「……そうか」
“彼らのことはドクターに任せるしかない。とにかく今は、早く艦を動かせるようにすることが先だ”
「そうだな。明日、こっちに戻ってきたら、イノンドを交えて、これからのことについて話し合おう」
通信を切るとイノンドの艦に繋ぎ、同じことを伝えて「こちらへ来るとき、マーティが渡したブレスレットを、艦にいる人に渡してきてください」
“どうしてですか?”
「そうしないと、残ってるクルーがまた狂いだしてしまうからです」
”本当ですか?”
「詳しい説明はできませんが、そうしてください」
“……わかりました”
通信を切ると椅子の背もたれに寄り掛かり「とにかく、これで先の目途が付いたな」
『ホント、一時はどうなるかと思った』シュールもやっと落ち着けてホッとする。
その時、ロイの腕時計のアラームが鳴った。
「ああ、もうこんな時間なのか。どうりで腹が空くわけだ」
腕時計を見ると、午後三時になっていた。




