12-1 谷の魔力
マーティたちが乗った偵察機を見送ると、メインパイロットのオリバが「なあロイ。なんでこの艦だけ何も起こらないんだ?」と聞いてくる。
「僕にもわからない」
「何か理由があるはずだろう?」
「たぶんね。でも、それが何なのかわからない」
確かにその事は気になるが、今はイノンドたちのほうが先だ。
『大丈夫かなあ?』シュールが心配そうに呟くと、固唾を飲んでスクリーンに映る、炎を上げて煙を吐き出している艦を見る。
「二人とも急げ」イライラしながら前方スクリーンを見るロイ。
その間にも、撃ち合いをしている敵艦が、爆発しながら見えない谷底へ沈んでいく。
レジーナ・マリス号が、敵艦を撃ち落しながらイノンドの艦の前につくために移動していると、エルのところに通信が入ってきた。
それは、左舷の護衛艦に向かったパイロットからだった。
彼の顔がメインシートのモニターにも映る。
“ダメだ! このまま行くと、俺は護衛艦を攻撃してしまう!” 彼の顔が苦しそうに歪んでいる。
「何が起きたんだ?」ロイが確認すると “わからない! わからないけど、大型の宇宙船を見ると攻撃したくなるんだ!”
「なんだって!」
“どうしたらいいんだ?”
「戻ってこい!」
“しかし、俺が行かなければ、護衛艦は沈んでしまう!”
「護衛艦は連絡が取れない。だから、このまま向かっても中に入るのに時間が掛かる。いいから戻ってこい!」
“しかし……”
「正気でいられるうちに戻ってこい!」
“……わかった”
偵察機は進路を変え、引き返してきた。
「マーティは大丈夫なのか?」不安に襲われると「ロイ! マーティから通信がきたよ!」
前方スクリーンに彼が映る。
「マーティ! 大丈夫か?」
“俺は大丈夫だ”
「そっちのクルーはどうだ?」
“俺が艦に入ったら、みんな正気に戻った”
「そうか。そっちは大丈夫だったのか」
“そっちは? どういう意味だ?”
「護衛艦に向かったパイロットは、途中で気分がおかしくなったと言ってきたので、戻るように言ったところだ。ところでイノンドは?」
“ケガの手当てに行った”
「艦のほうは大丈夫か?」
“いや、かなり危ない。シールドを張ったが、エンジンを停止しないと爆発する恐れがある。ケーブルを繋いで安全なところまで牽引してくれ”
「今そっちへ向かってる。準備が整うまで、何とか持たせてくれ」
そこへ「ロイ!」オリバが声を掛けてきた。「これ以上電圧が下がったら、イノンドの艦を引っぱれないぞ!」
「エル! 予備電源の確認をしろ! それと、壊れた電気室がどうなってるのか報告させて、修理できるようだったら応急でいい、使えるようにするんだ!」
「すぐ手配する!」




