10-3 宇宙の難関
前方スクリーンを見ると、クレイモアの谷の入り口が近づいてきた。
「オリバ! 準備はいいか?」
「もちろん!」
「上部機銃室。重機レーザー砲の準備。
八分後に、前方クレイモアの谷の上部へレーザー砲を撃ちこむ。
その後、谷の磁場を利用して中に入る。
各ポジション、敵からの攻撃に備えて配置につけ!
エル! レーザー砲発射後、磁場エネルギーの衝撃を回避するため、艦全体にシールドを張れ!」
前方に歪む空間が見えてきた。
「あれか」
その時、マーティが作戦会議室から戻ってきた。
「混乱は起きなかったか?」
「何とか大丈夫だ」
「ロイ。そろそろ谷の磁場の勢力範囲に入るよ」
「エル、二十秒前からカウントしてくれ」
「了解」
「イノンド。準備はいいですか?」
“全員、配置に付いてます”
「磁場の勢力範囲まで三十秒前」エルがカウントを取りはじめる。「二十秒前、十五秒前、十秒前、九、八、七、六、五、四、三、二、一、〇」
「撃て!」
レーザー砲が谷の入り口に向けて発射されると、磁場の歪みのため、入り口手前ではじかれ、拡散されたエネルギーに引かれて谷の磁場が広がる。
「磁場の波がくるぞ! 全員、衝撃に備えて近くのものに掴まれ!」
ゴオオオオオオオオオッ!
まるで大波が押し寄せるかのようにエネルギーの波がくると、艦全体にシールドを張っているが、ものすごい衝撃が襲う。
「想像、以上に、衝撃が、大きいな」後ろに吹き飛ばされないように掴まっているロイが「シュール、大丈夫か?」声を掛けると『電磁波でバチバチ!』剣の周りに静電気でも起きているかのように、青白く電磁波が出ている。
「磁場との摩擦で、プラズマを持つ、剣の周りにだけ、電磁波が、起きてるんだ」隣のマーティが、ロイの席との間に立て掛けてある剣を見る。
「シュール、頑張れ!」
『バチバチ!』
居住区は上下左右に衝撃を吸収するための特殊バネが付いているため、中にいる人達には影響が及ばない。
ふと、磁場エネルギーの衝撃が収まると、今度は引き潮のように引いていくエネルギーに引っぱられて、谷の入り口へ引き寄せられる。
それと同時に、悲鳴のようなヒーッヒーッヒーッという音が鳴りはじめた。
「すごい力で吸い寄せられてるぞ!」オリバが操縦レバーを必死に掴んでいる。
今度は前に押し込まれるようになるのを堪えながら「敵艦は、どうなった?」マーティに聞くと、モニターを見ながら「何隻かは、磁場から脱出した、ようだが、殆どが、捕まって、引き寄せられてる」
「いよいよだ」前方を見るロイ。「シュール、もう少しだ! 頑張れ!」
『バチバチバチ!』
その時、一隻の敵艦が発砲してきて艦に当たり、艦内が暗くなる。
「どこに当たった!」
「わからない! 今の攻撃で、電気系統が、故障したらしい! 計器類が、使えなくなった!」通信席で掴まっているエルが報告してくるが「すぐ、予備に、切り替える!」
電気は点いたが薄暗い。
「予備電源も、やれたのか!」
「原因不明! すぐ調べる!」
「エル! 出力が、落ちてるぞ! 何とか、ならないか!」オリバが叫ぶと「動けないから、原因が、わからないんだ!」インカムで指示を出しながら答えるので「仕方ない。手動に、切り替えるぞ!」サブパイロットに声を掛ける。
「イノンドのほうは、大丈夫か?」
マーティがモニターを切り替えると「何発か、食らってる、ようだが、あれくらい、なら、大丈夫だろう」
前方スクリーンは、グニャグニャに歪むクレイモアの谷の入り口を映していた。
ヒーッヒーッヒーッ
「獲物がきて、喜んでる、ように聞こえる」
「俺たちは、食われるわけに、いかないんだぞ」
「わかってる。なんとしても、抜け出すんだ」
レジーナ・マリス号は、イノンドが乗る宇宙管理局の艦と護衛艦二隻とともに、クレイモアの谷へ入っていく。




