10-2 宇宙の難関
「イノンドのほうに、クレイモアの谷について、新しい情報が来てませんか?」
“ああ、来てます。ちょっと待ってください”モニターから消え、少しすると戻ってきて “新しい情報によると、クレイモアの谷へ入ったとき、寝てた人には影響がなかったとあります”
「ということは、意識がないと影響を受けないのか。幸いにも殆どの人が寝てる。もし何か起きたとしても、最小限に食い止めることができるかもしれない」
「艦自体に何か起きれば、いくら寝てても起きるだろう?」
「起きないようにするほうがいいか、起したほうがいいか。難しい選択だな」
「今現在、起きてるのは約百人くらいだ。彼らに通達を出し、谷から出るまでお互いを監視させて、寝てる人には麻酔ガスで眠らせる、というのはどうだ?」
「その方法がベストか」同意するロイが「イノンドのほうはどうですか?」
“我々も、ほぼ同じ人数で稼動してます”
「護衛艦の二隻はどうですか?」
“同じ体勢で動いてます”
「マーティの作戦、どう思いますか?」
“他の方法を考える時間はありません”
「では決まりだ。イノンドのほうに麻酔ガスに似た作用のものはありますか?」
“あります”
「では、居住区のシャッターを閉めてガスを送り込もう。それと、各ブロックの責任者に指示を出すんだ。エル! 居住区の手配をしてくれ!」
“こちらもすぐに手配します” 隣にいるクルーに指示を出す。
「マーティ、居住区へ麻酔ガスを流すことと責任者への説明を頼む」
「わかった」返事をすると隣の作戦会議室へ走っていく。
“それで、どうやって谷に入りますか?”
「谷の磁場の勢力範囲ギリギリまで近づいたら、谷の入り口に数発撃ち込んで、磁場の勢力範囲を広げるんです」
“爆破を呼び水にして、谷の吸引力を広げるというんですか?”
「そうです。そうすれば奴らの宇宙船も一緒に引きずり込まれるので、攻撃してくる余裕がなくなると思います」
“上手くいくでしょうか。下手したら、艦の計器が狂って爆発してしまうかもしれませんよ”
「そうなったら、それまでだったと諦めるしかありません。うまくいくほうに掛けましょう」
“……そうですね。他に手がないのですから”
「では、時間を合わせましょう。エル! あとどの位で谷の勢力範囲に入る?」
「このまま行くと、あと十分ほどで入るよ!」
「イノンド。十分後に、谷の入り口の下部に撃ちこんでください。こちらは上部に撃ちこみます」
“了解しました”
「マーティ、終わったか?」インカムで話し掛けると “もうすぐ終わる”
「終わったら早く戻ってきてくれ。すぐに作戦を開始する」
『敵艦静かだね。なんか不気味だな』心配そうにモニターを見ているようで『本当に谷の中へ入るの?』とシュールが聞いてくる。
「それしか方法がないんだ」




