5-3 王女の説得
「ロイ様は、わたくしがお嫌いなのですか?」
「嫌いではありませんよ。友達としては好きです」
「……友達、として」
「あなたのような人に好かれて光栄ですが、僕は、あなたの気持ちに応えられないんです」
「変えてみせますわ!」
「それは無理です」
「何故ですの?」
マーティを見ると、一呼吸おいて話を続ける。
「これから話すことは公にできないので、聞いても、王女の胸の中にしまっておいてください」
「どんな事ですの?」
「いいですね?」いつになく厳しい顔をするので「……ええ、わかりましたわ」
側近たちを見ると彼らも頷くので、話を続ける。
「僕は、第二リゾートエリア内の南側にある、十個の惑星を持つファルネス系と言う系星の出身です」
「まあ、大きな系星なんですのね」
「父は、僕の父は、その系星の統治者です」
「エッ!」王女と側近の顔色が変わる。
そして、バーネットも驚いていた。
「もう三年近く前になります。
ある日、全惑星で、すべてのものが石に変わってしまう現象が起きました。
政府はすぐに対策チームを作って何とか原因を突きとめ、対応したのですが、殆どのものが石になってしまいました。
しかも、運悪く、観光に来てくれた多くの人達が巻き込まれてしまったんです」
「人も、石になってしまったんですの?」
「そうです。人も動物も植物も、海まで石になってしまいました」
「海まで! それで、原因は何でしたの?」
「人が造りだしたウイルスが原因でした。その犯人はここへ来る前にわかりましたが、石になってしまったものを元に戻す方法は、わかりませんでした」
「では、ロイ様の系星は、まだ……」
「石になったままです」
「まあ! でも、そのウイルスを造りだした犯人は見付かったんですよね? その犯人に聞けば何とかなるのではありませんか?」
「もちろん確認しましたが、その時の資料が全部消失してて、詳細を確認することができなかったんです」
「その犯人が証拠を隠滅してしまったのですか?」
「いえ、そういう訳ではないのですが、真相はわかりませんでした」
「そんな……」
「そのため、解決の糸口となるようなことがないか、こうして探してるんです」
「……そうですの」
「なので、この事が解決するまで、僕の任務が完了することはないんです」
「では、任務が完了して系星に戻られたら、ロイ様は、お父様の跡を継いで統治者になられるのですか?」
「今はまだわかりません。しかし、統治者の息子として、石となってしまった大勢の観光客や住民を助けなければならない責任があります」
「ロイの肩には、巻き添えになってしまった人達のことが重く圧しかかってる。そして、その人達の家族のこともだ」話しだすマーティ。俯く王女。
「その人達を救おうと危険な旅に出てるロイに対して、ワガママを通してる奴が無理を押しつけるのか? 自分勝手を押しつけることができるのか?」
「王女、星へ帰りましょう」イノンドが声を掛けるが、彼女は俯いたまま何も言わない。
そんな彼女に、ロイは改めて話し掛ける。
「僕も、好きで統治者の息子に生まれてきたわけではありません。
その事で、自分の人生を決められてしまうのは嫌だと思ってます。
でも、系星に住んでる人達や、観光に来てくれる人達のことを任される立場に生まれてしまった。
だから、その事から逃げるわけにいかない。僕がやらなければならないんです。
王女の気持ちはよくわかります。自由になりたいということも。
でも、あなたが守らなければ、誰がラナタ星を守っていくんですか?」
「王女。ラナタ星の人達が、あなたの帰りを待ってますよ」さらにイノンドが声を掛けると「ロイ様のおっしゃることはよくわかりますわ。でも、わたくしは……わたくしはロイ様のお傍にいたいのです!」
「王女!」
「ロイ様にご負担を掛けるようなことは致しませんわ!」
「これだけ言ってもまだわからないのか!」痺れを切らしてマーティが怒鳴ると「なぜわたくしだけがダメなのですか!」
「あなたが王女という立場にいるからです」と言うイノンドに「ですから、王女という立場は捨てたと申し上げたではありませんか!」
「では、ご家族も捨てたと言われるのですか?」
「……もし、王女という立場を捨てることが、家族を捨てることになるというのであれば、仕方ありません」
「王女! それはいけません!」
「とにかく、わたくしは帰りません!」宣言するとリビングから出ていく。




