8-2 鏡の泉の門
入った先は石造りの建物の中で、どうやら広間らしく円形の部屋だった。
後ろを向くと、長方形の大きな鏡が置いてある。
「なあ、グリファス……もしかして、グリファスって名前じゃないんじゃないか?」目の前にいる彼を見ると『フウン、よくわかったね。グリファスは種族の中でも男を指す呼び方なんだ。僕はミルファス。ミルでいいよ』
「ということは、ウェスフィンは女性の呼び方なのか?」隣にいる彼女を見ると『そうよ。私はメルフィン。メルって呼んでね』
「そうか。僕はロイ。よろしく」自己紹介すると「ところでミル。ここはどこなんだ?」
『宮殿の中だよ』
「じゃあ、この中のどこかに、アミークスと呼ばれる人物がいるのか?」
『付いてくればわかるよ』踵を返すと正面の出入り口に向かって歩きだすので「付いてこいか」メルの手を取るとミルのあとに付いていく。
彼は廊下へ出ると右へ曲がり、まっすぐ奥へ歩いていく。
ヒンヤリとした空気に足音が響く中、ゆっくり歩いていくと(アミークスが住んでる宮殿にしては静かすぎるな)と思いつつ辺りを見回し「メル。さっきから誰も見掛けないけど、この宮殿には誰もいないの?」
『うん。誰もいない』
(誰もいないってことは、アミークスもいないってことだよな)推測すると「前は誰か住んでたんだろう?」
『うん。たくさん住んでた』
「なんでいなくなっちゃったの?」
『……それは……言っちゃいけないって』
「誰かに言っちゃダメだと言われたの?」
『……うん』俯くので「わかった。これ以上聞かないよ」するとメルは見上げて『お兄ちゃんが、旅を続けていったらわかるよ』
「旅を?」
『うん』
廊下の突き当りまで行くとミルが立ち止まり『この部屋が目的地だよ』と言って入っていくので後から付いていくと、その部屋は高い天井に付いている明り取りの窓から陽の光が入り、その光を浴びる無数の木でできた様々な格好をした人形が、部屋一面に置いてあった。
そして、その人形に囲まれるように、中央に一角獣の像が立っている。
『注意されたし。一角獣の目は見てならぬ』
あの口伝を思い出し、視線を一角獣から逸らすと、ミルの背中だけを見ることにした。
彼は、木の人形を避けながら右奥へ向かって歩いてく。
彼らは一角獣について何も話さない。木でできた人形のことも。
その一角獣の前を通りすぎて奥の壁が近くなってくると、壁一面に文字がビッシリと彫られていることに気が付いた。
(なんでここにだけ文字が彫られてるんだ?)
先を行くミルが壁の前で止まり『ここの文を読んで』と一つの石を指す。
そこにはこう刻まれていた。
『我が宮殿への第一の門へ入りし尋ね人よ。ディア・マレのラクリマを受け取りなさい。それを持ち、第二の門へ向かうがよい。第二の門は、海の精の休息地にある、氷の炎の門より入る。玉座に座るシレーニの天秤に、ディア・マレのラクリマを乗せるがよい。されど尋ね人よ心せよ。水龍の前に立ってはならぬ。立てば逆鱗に触れ、食い殺されるであろう』
「第二の門へ行けだって? ということは、やっぱりアミークスはここにいないのか」
『お兄ちゃん。これ、忘れないようにメモして』
ミルに言われて上着のポケットから小型のタブレットを取りだすと、カメラ機能を使って写真を数枚撮る。
『それ何?』ミルが不思議そうに見るので「持ち運びできる、いろんな機能が付いた小型の機械だよ。忙しい世界で生きてると、こういうものが必要になるんだ」
『フウン、大変なんだね』
撮った写真を確認してポケットにしまうと、ミルが『今度はこっちだよ』一角獣の後ろ側へ歩いていく。




