8-1 鏡の泉の門
夢を見た。
気が付くと、真っ暗な森の中に一人で立っていた。
見上げると、ところどころに星が見える。
どうやら今は夜らしい。
辺りを見回すと一本の木の幹が光っているので近くに行くと、それは大きなエメラルドグリーンの蝶だった。
(蝶が光を放つなんて)
不思議に思いながらもさらに近づいていくと蝶は幹から離れ、グルグルと辺りを飛び回ると、森の奥へ飛んでいく。
その蝶に付いていくと前方に二つの灯りが見えてきて、近くへ行くと、それは門柱の前に立てられた松明だった。
光る蝶はその中へ消えていく。
門柱の前に立って奥を見ると「古代神話風の柱だな」しばらく見ていたが「どういう意図で作られたのか、まったく意味がわからない」
困惑したのは、門柱の奥にあるのが、石の土台の上に立つ二本の太い石柱だけだったからだ。
「まるで簡易なストーンサークルだな」
『これは、ある場所へ行くための門だよ』
「誰だ!」
不意の声に驚いて辺りを見回すと、右側の太い石柱の陰から十二・三歳の男の子が出てきた。
『この門は、秘密の場所へ行くための入り口なんだ』
「君は誰だ?」
『僕はグリファス。僕たち、お兄ちゃんが来るのを待ってたんだよ』
「君がグリファス?」
『そして、隣にいるのがウェスフィン』彼の後ろから七・八歳の女の子が出てくると『鏡の泉の門へようこそ』
「何だって! これが口伝に出てくる鏡の泉の門なのか!」石柱を指すと二人が頷くので(名前からガラス製の門を想像してたんだけど、どこが鏡や泉なんだ?)
「あれ? ということは、ここが影の森で、君たちが大地の精なのか?」
『そうだよ』グリファスが答える。
「そうか。ここにあったのか」改めて石柱を見ると「門といっても柱が二本立ってるだけじゃないか。建物らしきものもないし、どうやってどこへ入るんだ?」
するとグリファスが石柱の間に立つので、どうするのか見ていると、石柱の間に見えていた奥の森が消え、鏡のように彼の姿を映しだすと、ロイを見て鏡の中へ消えていく。
「ちょっと待て! 頼むから、理解できることをやってくれよ」
『お兄ちゃん、行こう』ウェスフィンが鏡の前から呼ぶので、恐る恐る石段を上がって鏡の前に立つと「一体どうなってるんだ? さっきまで何もなかったのに」鏡に触ると波紋が広がる。
「なあウェスフィン。これは鏡? それとも水?」
『うーん、どっちも合ってる』
「いや、どっちかでしょう」
『うーん、よくわかんない』
「どっちにしても、自分の顔にのめり込むことになるのか。気持ち悪いぞ」
『横を向いて入れば大丈夫だよ』
「それはそうだけど……」
ウェスフィンは、戸惑うロイの腕を引っぱって鏡の中に入っていく。
「ちょっと待った! 心の準備ができてない!」叫ぶと腕を引っぱるのを止める。
「ウエエエ、気持ち悪い」自分の腕が肘まで鏡の中に入っている姿を見てゾッとすると「池に手を突っ込んだと思えばいいんだろうけど、池は垂直に立ってない!」
『お兄ちゃん、早く』また腕を引っぱるので「わかったよ! 今行くから腕を引っぱらないでくれ!」覚悟を決めると、横を向いて鏡の中へ入る。




