50 第四の門の口伝に付いて
ロイたちは、会議室から出るとリビングへ向かった。
「アニス、もう遅いから部屋へ戻って休みなよ」ロイが心配すると「大丈夫。今日、遅くまで、寝てた、まだ、眠くない」
「バーネットは?」
「私も大丈夫よ」答える彼女はリビングに着くとカウンターへ向かい、人数分のアイスココアを作りはじめる。
いつもの席に座るアニスが「マーティ、姿、見えない。どこ、行った?」ロイに聞くと「第四の門の場所を調べに、リサーチルームへ行ったよ」
「あの口伝、内容だけ、調べ、られる?」
「実は、クミン叔母さんから、第四の門の場所の口伝を教えてもらったんだ」
「まあ! いつ?」
「夕飯をご馳走になったあとで。本当は巫女のローズドックに聞こうと思ってたんだけど、出発近くまで寝てたせいで聞きそびれてしまったんだ。
その事に気付いたのが帰りのジープの中だったから、焦ったよ。
引き返そうかマーティと話してたら、案内役のディルも巫女の一人だったのを思い出して、彼女に聞こうということになったんだけど、クミン叔母さんが先に話してくれたんだ」
「第四の門の場所のことはジュニパーが受け継いでたから、ディルは知らないのよ。叔母さんが先代の巫女で助かったわ」バーネットがアイスココアを持ってくる。
「四人の中、受け継ぐこと、決まってた?」
「そうよ」
「ロイ、どういう、内容、聞かせて」と言われてポケットからメモ用紙と携帯を取り出すと、録音してあるクミン叔母さんの声を再生する。
『天の彼方、宙に浮く大地あり。雷鳴と海霧の庇護のもと、荒ぶる雷の狩場の先、月虹の麓に、次への門が開かれる』
「まあ! 大地、宙、浮く?」
「こんな変わった地形のところなら絶対有名な場所だと思うから、すぐに割りだせると思うよ」
「雷鳴と海霧というからには、かなり荒れた天候のところなのかしら?」
悪天候を想像するバーネットが嫌そうな顔をするので「でも、月虹の橋というのがあるから、ああ、月虹とは月の光ではなく月の虹と書くんだ。月の光でできる虹らしいよ」ロイがメモに書かれている文字を見ながら説明する。
「月の光で虹ができるの?」興味を持つバーネット。「見てみたいわ」
「私も、見たい。やっぱり、七色?」夜に掛かる七色の虹を想像するアニス。
「色のことはわからないけど、虹か掛かるくらいだから、荒れた天候ではなく、一時的な気象の変化があって、そのあとに現れるってことなんじゃないかな?」
「ああ、そうかもしれないわね」
「楽しみ。宙に浮く、大地、どんな、所?」
「私もぜひ見てみたいわ」第四の門に思いを馳せるアニスとバーネット。
「でも、天の彼方、どういう、意味?」
「宇宙は地上と違って、三百六十度、移動が可能だろう?」
「ええ。じゃあ、今度、上、行く?」
「宇宙は通常重力がないから上下の感覚はないんだけど、わかりやすく説明するならそうなるね。詳しくはマーティが来てからになるけど」
「バーニングゾーンから見た第四の門がある場所が、上になるということでしょう?」
「今までの流れからいくと、そうなるね」
「なんか変な感じね」
「アニスとバーネットは宇宙船で航海したことがないから、地上での感覚で考えてしまうだろう? だから違和感があるんだよ」
「確かにそうね。左右に移動はしても、上下の移動はビルくらいしかないもの。そういえば、シュールはどうしたのかしら? ずっと声が聞こえないんだけど」
いつもなら、こういう話をしていると参加してくるのに、一向に声がしない。
「たぶん寝てると思うよ。大分疲れてるようだったし、艦に戻れると思って安心したんだろう」ペンダントヘッドの大きさの剣を見るので「まあ、時間も時間だから、寝ててもおかしくないわね」カウンターに置いてある置時計を見ると、もうすぐ日付が変わろうとしていた。




