30 炎の鳥
狭い空間のため、空気が熱くなっている上に火が燃えてさらに気温が上がり、そこへ緊張感が加わったせいで、変な汗を掻きだした。
『ロイ、気持ち悪い』シュールが口を押えて下を向くので「もう少しで出口だ。頑張れ」前方を指すと、小さく見えていた明かりが大きくなっている。
出口から差しこむ光が当たるところまで上がってくると、壁からラチェルタの絵が消えていたので「マーティの読みどおり、光が当たってるところには、ラチェルタの絵が描かれてないぞ」壁に手をつき、ホッと息を吐く。
そして、長かった階段を上がりきると、緊張感が取れてそれぞれ辺りに座りこむ。
『マーティ、私の尻尾がどうなってるか見てくれる?』
「半分くらい黒焦げだ」
『半分も!』
「あとで切り落としたほうがいいな。ほら、気にするな。また伸びてくる」ショックで落ち込む彼女を励ます。
『アニス、火傷したところを見せてごらん』と言われ、シーホリーに右手のひらを見せるとフーッと息を吹きかける。すると、火傷して赤くなったところに薄い氷の膜ができた。『これで、少しは痛みが引くだろう』
「すごい、ありがとう」凍った掌を不思議そうに見る。
「熱気がすごいから、息を吸うと喉が痛いな」ロイが水筒の水を飲むと「アイスクーラーが効いてる間に戻らないと、暑さでやられるぞ」マーティが首から下げているアイスクーラーを見て「なんか、色が薄くなったような気がする」
「アイスクーラーは、冷えてるときはきれいなセルリアンブルーなんだけど、温かくなるにつれて透明になっていくのよ」バーネットの説明を聞いて「なるほど。残り時間がわかるようになってるのか」
「平均で三時間くらい持つけど、前後するから気を付けて」
「若干色が薄くなったような気がするけど、まだ大丈夫だな」ロイが自分のアイスクーラーを見る。
落ち着いたところで室内を見回すと「見ろ。天を仰ぐ炎の鳥だ」ロイが指さす部屋の奥に高さ一メートルくらいの正方形の台座があり、その上の大きなラズベリーバードの像が、天井にあいている明り取りから見える青空を見上げていた。
像の前にいくと「台に上らないと顔が見えないな」
ロイの身長は一七八センチ。そのことから計算すると、台座を含めた像の高さは大体二メートルくらいだろう。
「すいぶんと不親切に作ってあるな」あとから来るマーティも像を見上げる。
彼の身長は一八三センチ。ロイより少し背が高いが、その彼でも像の顔を見ることができない。
『私なら大丈夫だろう』彼らの後ろに立つシーホリー。
彼は二メートルくらい身長があるので「像の目を見てくれないか?」場所を譲るロイが「どちらかの目が空いてるはずなんだ」
シーホリーが背伸びをして顔を覗き込むと『ああ、右目が空いてるよ』
「左目には何が填ってる?」
『赤い石が填ってるよ。きっと、この宮殿に埋まってる例の赤い石と同じだろうね』
ロイは第二の門から持ってきたカルブンクルスをバッグから取りだし「これを、空いてる右目に填めてくれないか?」手渡すと『左目に填ってるのと同じ石だね』掌の石を見る。




