29 奇妙な図形
ロイは部屋の中心に立ち、左右を見ると、両側の壁の近くにも、同じように描かれている塊があることに気付いた。
「面白いな」隣に立つマーティが「こうなると、入り口近くにも同じような絵の塊があるだろう」入り口に向かって歩きだすので、今度はロイがあとを追う。
入り口手前で立ち止まるマーティの隣に行くと、彼の足元に円を描くようにラチェルタが描かれていて、振り向くと、口伝が書いてある場所にバーネットが立っている。
「どう思う?」マーティに聞かれ「描かれてる場所に意味があるか、描かれてるものが作る図形に意味があるか、じゃないか?」
「同感だ。十字と見るか菱形と見るか、それともポイントで見るかだな。この光景、覚えておく必要があるぞ」
「ああ。二人で覚えておこう。あとで答え合わせできるように」
二人は部屋の構図を頭に叩きこみ、足元を確認しながら出口前にいるシュールたちの所へ戻ると「イグナス・ヴェナンディが持つ、炎の矢を探しにいくぞ」奥に見える階段を見る。
次の階段は狭く、暗いうえに熱気で少し息苦しい。
先頭からロイ、シュール、バーネット、コストマリー、マーティ、アニス、シーホリーの順で一列になって上がっていると、少しして「アツッ!」と声が聞こえてきた。
「アニス、どうした?」前にいるマーティが振り向くと「足元、暗い、躓いた。手を付いた、ところ、熱くなった」押さえる彼女の手を見るが「暗くてよく見えないな」ポケットからライターを出し、点けて手を照らすと「赤くなってるが大丈夫そうだ。どこに手を付いた?」
「ここら、辺」指さす壁にライターを近づけると「アッ!」
「シッ!」マーティは屈むと階段を照らす。
『どうしたんだね?』彼らの後ろにいる最後のシーホリーが覗き込んでくるが、マーティは答えずに立ち上がると「みんな、止まれ」と声を掛ける。
「マーティ、何かあったのか?」先頭を行くロイの声が聞こえてくるので「これから言うことを落ち着いて聞いてくれ。絶対、慌てたり騒いだりするな」
「どういう意味?」バーネットがコストマリーの横から顔を出すと「いいから、わかったな?」
「え、ええ、わかったわ」ただならぬ雰囲気を感じとり、素直に頷く。
「もう一度言うが、落ち着いて聞いてくれ。ここの壁にも、ラチェルタの絵が描いてある」
「エーッ!」
「慌てるな! 階段には描かれてない! 壁だけだ!」
みんなの動きが止まるので、シンと静まり返る。
「とにかく、壁に触らなければ大丈夫だ。さっき確認したが、入り口付近の壁には描いてなかった。たぶん、出口付近の壁にも描いてないだろう。暗い中間の壁にだけ描かれてるらしいから、足元に注意してゆっくり上がるんだ。絶対慌てるな」
『ロイ』後ろにいるシュールが服の袖を引っぱるので「大丈夫。壁に触らなければいいんだ。一段ずつ、足元を確認しながら上がるんだ」
その階段も、手入れがされていないため、かなり傷んでデコボコになっている。
「バーネット。ここら辺も手入れをしてくれるように頼んでくれよ」
「いつもここまで入れるんだったらやってるわよ」
「確かに」
足元を確認しながら上がっていくと、突然、ボゥッと音がして明るくなった。
「コストマリー! 尻尾が燃えてるぞ!」後ろのマーティが叫ぶと『ウソ!』火を消そうと尻尾を振るので、左右の壁に描かれているラチェルタの絵に当たり、両側から炎が噴きだす。
「シーホリー! アニスを後ろに! コストマリー! 尻尾を振るな!」
『誰か火を消して!』パニックを起こすコストマリーがさらに尻尾を振るので壁に当たり、その度に炎が噴きだすので、焦げ臭い匂いが立ちこめる。
「マーティ! 早く火を消せ!」ロイが大声を出すと『しゃがみなさい』シーホリーがマーティの肩を押してしゃがませ、口から白い息を吹きだして火を消す。
『もう大丈夫だ』
『ありがとう、シーホリー』ホッとするコストマリー。
『ここから出るまで、尻尾は振らないほうがいいね』
『ええ。気を付けるわ』
『尋ね人、もう大丈夫だ。進んでくれ』
「了解」前を向くとゆっくり階段を上がりはじめる。




