25 赤茶色の世界
トンネルから出ると、ジープはすぐに止まった。
「少しずつ目を開けて、光に慣れたら外に出て」サングラスを掛けているバーネットが先に車から降りる。
『ウワーッ! 何あれ!』シュールの大声に促されて目を開けると、奇妙な光景が広がっていた。
ジープが停まっているのは、噴火口のような、すり鉢状の大きな窪地の途中に突きでている突起のような場所で、目の前には、無数の細長く赤茶けた岩柱が立ちならび、中央奥にある炎の要塞のような巨大な石柱が、天を突き刺すかのように一際高くそびえ立っていた。
車から出ると、改めて周りの景色を確認する。
「シュールが言ったことは、あながち間違いではないな」目の前の赤い石柱群を見るマーティ。
「すごい。こんな場所、ある、信じられない」マーティの隣に立つアニス。
「まるで、燃えさかる炎の中に建ってるように見えるよ」アニスの隣に立つロイ。「火炎の宮殿か。まさに、だな」
「どうやって、作った?」
「人ではない方々が作ったんだろう?」マーティがバーネットを見ると「そうよ」と答える。
「さすがに近くにくると上位蜃気楼は見えないけど、それでも、石柱の上のほうが、歪んで炎のように見えるな」ロイが見上げると「あれは、現象のほうの陽炎よ」
「なるほど。燎の天の門。天に伸びるかがり火。そういう意味か」
「さあ、ここから歩きよ。各自、水筒とタオルは必ず持ってって。それと、これを首から掛けて」ジープからクーラーボックスを出すと、チェーンが付いたゴツゴツした握り拳大のガラス球を取りだす。
「これは何?」受け取るロイがガラス球に触ると「冷たっ!」
「それは、携帯用のアイスクーラーよ。観光案内するとき、熱中症対策として、お客さんに首から掛けてもらうの。クミン叔母さんが持たせてくれたのよ」
「ヘェ。どのくらい持つんだ?」
「そうね。三時間くらいかしら」
「こんなに小さいのに、そんなに持つんだ」
それぞれ首から下げると「涼しい」不思議そうにアニスが見るので「アニスが住んでた星には必要ないものだな」苦笑するマーティ。
「下に降りるからこっちに来て」バーネットがトンネルの左側にあいている穴へ向かう。
運転手と護衛車はここに残った。
バーネットを先頭に穴に入ると、狭い階段をくだって崖下にでる。
「ここからは宮殿が見えないな」マーティが赤茶けた石柱を見上げる。
途中の突起場所から見たときはそんなに太さを感じなかったが、降りてくるとかなり太いとわかる。
「中央に向かって歩けばいいんだろう?」宮殿がある中央へ向かってロイが指さすと「あてずっぽうで進むと、途中でわからなくなるわよ」
「じゃあ、どうやって行くんだよ」
「道標があるのよ。みんなにもすぐわかるわ」
「道標?」ロイが近くの石柱を見ていくとマーティが地面を見てまわり、アニスも辺りを見回すが、それらしいものが見当たらない。
「本当に道標があるのか?」揶揄われている気分になり、マーティが疑いの目を向けると「もうお手上げ? ダメね。これじゃあ、宮殿に行くまで相当時間が掛かるわよ」
その時『ねえ、何か聞こえない?』とシュールに言われて耳をそばだてると、キュー、キューと、何かが鳴くような音が聞こえてきた。
「さすがシュール。この音が聞こえるほうへ進めば、宮殿の入り口に着くのよ」
「音が道案内とは盲点だったな」なるほどと納得するロイ。
聞こえてはいたが、石柱の間を通る風の音だと思っていたので、気に留めていなかった。
「確かに、音がするほど風は吹いてないな」石柱を見回すマーティ。
「音声案内板の変形ってところかな」ため息を吐くロイ。
「こんな所で案内板は思い浮かばないだろう」
「だよな」
「シュールが一緒でよかったわね」
「しゃべる探知機」
『ひっどーい! ロイなんか全然わからなかったくせに!』
「ロイ。いつも、一言多い。シュール、かわいそう」
「ごめん、悪かった」
「いつもこうなの?」クスクス笑うバーネットが「進むわよ」先を促すので、音のするほうへ歩いていく。
「しかし、石柱に印を付けるか、それこそ案内板を立てれば迷わないだろう?」ロイが提案すると「ここは神聖な場所なのよ。キズなんか付けられないわ。それに、この中に入れない間、かなりの強風が吹いてるらしくて、道標のロープは吹き飛んで跡形もなくなってしまうのよ」
「強風か。ここの石柱は風で削られてデコボコしてるのか」近くの石柱を触るマーティ。




