23-1 口伝に出てくる場所
外へ出ると二台のジープが階段下に並び、傍にローズドックたちが立っていて、降りてくるロイたちに気付くと「口伝の忠告を忘れなきように」と声を掛けてくる。
「気を付けます。王女たちのこと、頼みます」ローズドックが頷くとジープに乗りこみ、護衛車のあとから出発する。
ジープはさらに南へ向かって、砂漠地帯を走っていく。
後部座席にアニスを挟んで座っているロイが「そういえばさっき、イノンドから別の話を聞いたんだ」マーティに話し掛ける。「正体不明の戦闘艦が着陸してるらしい」
「ロサ姉妹ではないのか?」
「彼女たちの船ならすぐわかると言ってたよ」
「ああ、そうだな。では何者なんだ?」
「イノンドが何か隠してる。きっと、その艦に心当たりがあるんだ」
「聞かなかったのか?」
「聞いたら、僕たちがどこへ行くのか教えたら話すと言われた」
「火炎の宮殿と答えたんだろう?」
「その先があるだろうと突っ込まれたよ」
「やはり気付かれてたか」
「答えられないから、こちらもそれ以上聞けなかった」
「怪しいと臭わせといて全部を言わないとは、ズルい手を使うな」
「駆け引きは向こうが上だよ」
『これからイノンドには気を付けないといけないよ』シュールが注意するので「そうだな。しかし戦闘艦か。注意しといたほうがよさそうだな」
「さっきエルに連絡して探りを入れてもらうように頼んだら、すでに調べはじめてた」
「さすがエルだな」
「何かあったの?」助手席のバーネットが二人の会話を聞いて入ってくる。
「そんなに気にすることじゃないよ」
「そう?」
「だい、じょうぶ?」アニスが小声で聞くので「心配するな。何かあればイノンドたちが動く」と聞いて小さく頷く。
「ところで、宮殿までどの位かかる?」ロイが話題を変えると「順調にいけば、一時間くらいで着くかしら」
「一時間か。けっこう離れた場所にあるんだな」
「そうね。ほら、口伝に出てくる「灼熱の雪」が見えるわよ」左側を指すので「どこ!」慌てて窓の外を見ると「光に反射して光ってるのは羽?」ロイが携帯で動画を撮りだす。
「青空の下に降る溶けない雪か。珍しい光景だな」マーティも携帯を取りだし「それにしてもすごい大群だな。一体、何匹いるんだ?」
アニスもマーティの隣で動画を撮りはじめた。「初めて、見る。すごい」
『光る花びらが大量に動いてるみたいだね』シュールも動画を撮っているのかもしれない。
大きくなったり小さくなったりする大群は、地表に現れたオーロラのようにキラキラと光っている。
「しかし、陽炎は普通、水のある所にいるんじゃないか?」記憶を探るマーティに「彼らは産卵のために、この先にあるオアシスに向かってるのよ。来年は、向うのオアシスからこちらのオアシスへ向かう灼熱の雪が見られるわ」
「なぜそんな事をするんだ?」
「産卵場所をきれいにするために行き来してると言われてるわ」
「そういえば昨夜、オアシスへ向かう途中で、蛍のような光る虫を見たけど、あれは何?」ロイが思い出すと「砂蛍よ。蛍と付いてるけど別の生き物。夜になると集団で光を出しながら飛ぶから、そう名付けられたのよ」




