20-1 第三の門のキーマン
「なぜ私の分のサークレットがないかというと、私が第四の門の鍵を持ってるからよ」
「では、サークレットと第四の門の鍵が、受け継がれてきたものなのか?」
「そうよ。巫女の間で受け継がれてる言い伝えの中に、ある時期がくると、巫女の力を受け継ぐ四つ子が産まれるというものがあるの。
ある時期とは尋ね人が現れるとき。
私たちが産まれたとき、当時の巫女が、言い伝えにある四つ子が産まれたと言ったそうよ。
そして、言い伝えに沿って私たちは産まれてすぐに、別々の土地でバラバラに育てられたの」
「では、シルバーデザート星にいる君の両親は?」元の位置に座り直すロイに「育ての親よ。私はシルバーデザート星に、ディルはブロンズデザート星にいる一族に預けられ、ローズドックとジュニパーがここで育てられたの」
「彼女たちがここに残ったのは、生まれたのが四つ子ではなく、双子だったと思わせるためなのか?」
「そうよ。引き離されるとき、当時の巫女が、サークレットの力でディルと私、ジュニパーの髪と瞳の色を変え、ローズドックだけ、巫女として生まれたことにして、元の姿のまま育てられたのよ。
私たちが十五歳になると、それぞれがどのような力を受け継いでるかを確認して、ローズドックたちはサークレットを授かり、私はペンダントを授かったの」身に付けているロケットの蓋を開けてペンダントを取りだす。
『そんなところにペンダントを入れてたんだ』目を丸くしていそうなシュール。
「これは、鳥?」覗きこむロイ。
「火の化身である朱雀はこういう姿をしてるのよ。この建物の中にあるタペストリーの敷物に刺繍されてるでしょう? 私たちが座ってるこの敷物にもあるわ」
「確かに。でも、そんなところにペンダントを隠してたとはね」
「このまま付けてたら正体がバレてしまうから、この中に隠しておいたのよ」
「でも、そのペンダントを持ってたのに、どうしてシュールの声が聞こえなかったんだ?」
「このロケットにも封印がしてあったからよ」
「そうなのか。で、どうして君だけ記憶を封印することになったんだ?」
「私たちがそれぞれのものを受け継いだとき、真相を告げられ、キーマンとして本格的に修行するよう言われたんだけど、私はどうしても医学の勉強を続けたかったので、その事を当時の巫女に話したら、期間は五年、シルバーデザート星の大学に通うことを条件に許可してくれたの」
「なぜこの星の大学じゃなかったんだ?」
「シルバーデザート星が、三つの衛星の中で一番発展してるからよ。大学の設備も最先端のものを揃えてるわ」
「よく許可をもらえたね。こういう所の風習はかなり厳しいだろう?」
「その当時、ここには高度な知識や技術を持つ専門医がいなかったのよ。そのため、様々な医薬品や設備を整えても使いこなすことができなくて、結局、リスクの高い町までの輸送で対応してたの。
でも、治療が間に合わなかったり後遺症が残ったり、高い治療費を払うことができなくて、治療すれば治る病気やケガで亡くなってしまう人が少なからずいたのよ」
「それで、その状況を何とかしようと君が名乗りを上げたのか」
「私が育った所はここよりずっと開けてるから、死の存在はあまり身近に感じなかったけど、ここでは小さい子が肺炎で呆気なく亡くなってしまうくらい、死との距離が近いの。そのギャップに心が痛んだわ」
「顔や瞳、肌の色を変えて記憶を消した理由は?」
「この姿でほかの土地に行ったらすごく目立つでしょう? すぐにここの出身だとわかって、巫女が何しに来たのかと大騒ぎになってしまうわ。だから、自分の置かれてる立場を他の人に悟られないようにするためと、勉強に集中できるようにという理由で、その期間だけ変えて記憶を封印されたの」
「それでは、僕たちが来たとき、連絡がいっても何のことかわからないじゃないか」
「詳細を知ってる叔父がその大学にいたのよ」
「ああ、例の事件の発端となったメールをもらった人か」
「ええ。あのとき期間は二年残ってたし、興味あるプロジェクトだったから、残りの期間をその研究に費やしてみようと思ったのが間違いだったのよ」
「勉強熱心さが裏目に出てしまったのか」




