9 全員で出発
車は大通りに出ると南へ向かって走る。
「ああ、一時はどうなるかと思った」後部座席のロイが疲れた声を出すと「あの、日傘をさしてるお嬢様は誰なんですか? 王女と呼ばれてましたけど」ディルが当然の質問をしてくる。
「彼女はある星の王女で、訳あって艦に乗ってるんですよ」イノンドが理由を話すと「本物の王女なんですか? そうなんですか。そういえばお付きの人がいましたね。でも、二人だけで王女の護衛ができるんですか?」
「我々が護衛として付いてますから」二台目のジープに乗れなかったイノンドが答えると「あなた方が?」
「私たちは宇宙管理局の者です。彼女の父親から護衛の任務を受けて同行してるんです」
「あなたは宇宙管理局の人なんですか!」
「そうです」
「なんか、大変そうですね」同情の目で見られて「ハハハ、そう見える?」苦笑するロイ。
「なんか、バーネットと張り合ってるみたいですけど」
「意見が合わないらしくてね。どちらも引かないから、時々ああなるんだ」
「そうですか」
「ところで、火炎の宮殿までどの位かかるかな?」
「順調に行けば明日、着けますよ」
「順調に? では、何か障害になるものが途中にあるの?」
「いえ。宮殿に行く前に、やらなければならないことがあるんです」
「それはどんなこと?」
「それは今日、泊る宿に着いたらお話しします」
二時間近く走ると、休憩のために近くの村に立ち寄った。
ジープから降りると「さすがに暑いな。ジープの中がクーラー効いてて涼しかった分、外とのギャップがありすぎる」マーティがムッとする熱気に顔をしかめると「木陰を通ってください。直射日光に当たりすぎると熱中症になってしまうので、気を付けてください」声を掛けてくるディルに案内されて小屋に入る。
その小屋は椰子の葉を敷きつめた屋根に、壁のない柱だけが建っている、暑い地方独特のものである。
その中に置いてある細長いテーブルに並んで座ると、女性が数名、近くを流れる川で冷やした果物を、手で編んだだろうと思われる大きな籠に入れて持ってきた。
側近たちに挟まれて座っている王女は、物珍しそうに辺りをキョロキョロ見回しているが、イノンドの部下二人に挟まれているバーネットは、苦虫を噛み潰したような顔をして座っている。
『あの二人が大人しいと不気味だ』何かの前触れのように呟くシュール。
「先を、争って、ロイの隣、座る、思った」アニスも不思議に思っているらしい。
「さっき釘を刺しておいたんですよ。今度ケンカしたら、無条件で帰ってもらうからと言っておきました」ニッコリ笑っておいしそうに果物を食べるイノンド。
「助かります」ホッとするロイ。
「でも、あの冷静なバーネットがあんなに情熱的だったなんて、知らなかったわ」話に入ってくるディル。
「昔の彼女はどんな感じだったの?」ロイが果物を取りながら聞くと「堅物。勉強虫ね。遊びなんかそっちのけで、いつも難しい本を読んでました」
「研究所にいたとき、そんな感じだったな」思い出すロイ。「彼女にとって、王女との出会いはプラスだったのかもしれないな」村人と話しだすバーネットを見る。
「それ、王女も一緒、思う」
「そうか。いいように変わってるんだったら、もう少し我慢するよ」




