7 口伝の確認
冷房の効いた広い居間に置いてある籐の長椅子に並んで腰かけると、冷たい飲み物を持ってくるクミン叔母さんがテーブルにグラスを置き「さて、お聞きになりたいこととはなんでしょうか?」一人掛け用の椅子に座るとロイに話しかける。
「これからお聞きすることがここにあるか、教えていただきたいんです」
「はあ、どんなことでしょうか?」
ロイは携帯を取りだすと第三の口伝の写真をだし「まず、灼熱の雪と呼ばれるものをご存知ですか?」
「ああ、それなら、この地方で今の時期に発生する砂陽炎の大群のことですよ。羽根がキラキラ光ってゆらめく雪のように見えるので、そう呼ばれるようになりました。よくご存じですね」
「砂陽炎ですか。では次に、深緋という場所がありますか?」
「それは、火炎の宮殿に通じる道のことです」クミン叔母さんは少し怪訝そうな顔をして「なぜその道を知ってるんですか?」少し強く聞き返してくるが「火炎の宮殿があるんですか!」ロイが勢い込んでくるので「エ? ええ、ありますよ」押されて少しのけぞる。
「では、宮殿の場所もご存じですね?」
「ええ、まあ……」
「その宮殿に行きたいんです。案内していただけませんか?」
「それはちょっと。あそこは観光ルートに含まれてませんし、いつも行ける場所ではありませんから」
「どうしてですか?」
「火炎の宮殿は黄金の幕と呼ばれる砂埃に囲まれてて、ある時期に発生する、熱風でできる深緋の道からしか行けないんですよ」
「黄金の幕とは砂埃のことなんですか!」
「え? ええ、そうですよ」
「そうですか。で、その深緋の道ができる時期はいつですか?」
「なぜ火炎の宮殿に行きたいんですか」質問に答えず、柔和な顔から探るような顔付きになるので「それは……」どう返答したらいいか考え「その宮殿にあると言われる、ラチェルタと炎の鳥を見たいんです」
「なぜその像のことを知ってるんですか!」
「あ、それは、ある星の、山奥にある、歴史資料館のような、ところで、文献、を読みまして、それで、知ったんです」
「どこの資料館ですか?」
「それは、由緒ある、資料館、ですが、かなり遠い星にあるので、ご存じないと、思います」
「そうですか」クミン叔母さんが何やら探りはじめるので「なぜ、そんなに神経質になるんですか?」今度はロイが聞き返すと「エ?」意外なことを聞かれて少し面食らう。
「なぜ、そんなに火炎の宮殿の話に神経質になられるのか、ちょっと不思議に思ったので」
「それは」叔母さんは少しの間考えると「私の家は代々、火炎の宮殿の神官を務めてるんですよ。
年に一度現れる深緋の道を通り、巫女と一緒に宮殿へ祈りを捧げにいくんです。
あの宮殿は私たち以外、存在を知りません。それなのに、遠方から来られたあなたたちがなぜ知ってるのか。どこかの星の山奥にある歴史資料館に、火炎の宮殿のことが記載されてるなんて、聞いたことありませんから」
「もしかして、火炎の宮殿を管理されてるんですか?」と聞くと、叔母さんはロイを見て真意を探るように時間を置くと「そうです」と答える。
すると、今度はロイが考え込んだ。
(第三の門がある火炎の宮殿を管理してるというのなら、この人の近くにいる誰かがキーマンの可能性がある。そうなると、火炎の宮殿に行くことになれば、姿を現す可能性が高い。となれば、なんとしても行けるように持ってかないといけないな)
「ぜひ、その宮殿に案内していただけませんか? 文献を読んではるばるここまで来たんです。歴史的価値のある建造物や彫刻の資料を作成したいので、お願いします!」
頭を下げるロイに些か押されぎみだが「確かに歴史的価値はあると思いますが、あれらはただの彫刻ですよ。調べるのに何か特殊な調査でもやるんですか?」
疑惑の目を向けてくるので「いえ。それらの彫刻に影響が出るようなことはしません。それに、ガイド料はきちんとお支払いいたします」
「……そうですか」叔母さんはまたロイを見て言葉の真意を探りだすが、少しして「わかりました。ご案内しましょう。但し、あの宮殿は、先ほども言いましたが、観光ルートに入ってません。それは神聖な場所だからです。今回はあなたの熱意を汲んで許可しますが、警備の者を同行させます。いいですね?」
「そうですね……それで、宮殿に連れていっていただけるのであれば」
「それと、ガイド料はいりません。バーネットを救出していただいたお礼です」
「いえ、それとこれとは別です」
「それで私の気が済みますから。そろそろ案内役のアルバイトが戻ってきますから、支度をしてきます」
叔母さんが部屋から出ていくと「私も手伝うわ」バーネットがあとから付いていく。




