53-3 新たな火種
そこへエルが入ってきて「ロイ! いつ戻ってきたんだよ! 教えてくれなきゃ困るじゃないか!」
「悪い! 説得するのに時間が掛かって、さっき戻って来たんだ。ちょっと疲れたから、休んでから連絡しようと思ったんだ」
「まあ、大変だったのはわかるよ。一筋縄でいく相手じゃないからね。手こずったんじゃない?」
「まあね。でも、イノンドのお陰でなんとかなったよ」
「本当? それは良かった」空いている椅子に座り「疲れてると思うけど、仕事の報告があるから」タブレットのスイッチを入れ「今回の売り上げの結果が出たんだ。結構うまくいったよ」
イノンドの部下に元営業マンがいて、彼がノウハウを教えながら手伝ってくれるようになったので、ここでも装飾品の売り込みができた。
エルからタブレットを受け取ると「こんなところにまで気を配っていただいて、ありがとうございます」イノンドにお礼を言い、表示されている売上リストを見ると「今回もいい線いったな」嬉しそうに数字を見ていく。
「クラリー夫人が、いい値で引き取ってくれたと言ってたよ」
「それはいい傾向じゃないか。先の見通しが明るくなるよ」タブレットをマーティに渡すと「ほう。こんなにいくとは思わなかった」
「この調子でうまく軌道に乗ってくれるといいんだけどね」
「手伝ってくれてるイノンドの部下の人にも、アドバイス料とマージンを出さないといけないな」
「それは気にしないでください。副業は認められていないので、マージンを受け取ってしまうと解雇されてしまうんですよ」
「エッ! そうなんですか? それなら別の方法でお礼するようにします」
「本人も楽しんでやってますから、そこまでは」
「ダメです。こういう事はきちんとしないといけません」
「そうですか。それでは、よろしくお願いします」
「エル、頼んだよ」
「わかった。毎回売上が伸びていくとデータを入力するのが楽しくなるから、対応を考えるよ」笑顔で部屋から出ていく。
「何か商売でもしてるの?」話を聞いていたバーネットが聞いてくるので「装飾品を作ってるんだ。腕のいい職人がたくさんいるんだよ」
「まあ! 本当?」キラキラと目を輝かせる。
「まだ始めたばかりなんだけど、毎回、売上を伸ばしてるんだ」
「艦の中で作ってるんでしょう? 見に行きたいわ」
「私、案内する」アニスが声を掛けると「ありがとう。楽しみだわ」弾んだ声を出す。
『そうだ。売れるようになったら、一つ買ってくれる約束だったよね?』嬉しそうなシュール。
(そんな前のことを覚えてたのか)と思いつつ「そろそろ仕事に戻るよ」立ち上がると「もう少しゆっくりすればいいのに。あの王女の家族とやり合ってきたんだから、疲れてるでしょう?」バーネットが引き止めるが「仕事を片付けたらゆっくりするよ」
「できるといいな」ボソッとマーティが呟くので「どういう意味?」聞きとめるバーネット。
「大変な仕事が残ってるから、ゆっくりしてる暇がないんじゃないか、という意味だ」
『もしかして、私と関係ある?』ピンときたシュールが凄みのある声を出すので「ゆっくり片付けろ」言い直すと『フウン、そう来たか』
「マーティ、仕返しか?」睨むロイに「さあな」惚けると「仕返しって何?」バーネットが突っ込んでくるので「何でもないよ」すかさずロイが切り返すと「そう?」また疑惑の目を向ける。
「では、私はこれで引き上げます。やる事がありますので」席を立つイノンドに「今日はありがとうございました。すごく助かりました」お礼を言うと「送ってくるよ」一緒にリビングから出る。
通路を歩いていると「バーネットの前では、不可解な言動や行動は控えたほうがいいですよ。理解できないことは追及するタイプようですからね」と声を掛けてくるので「気を遣わせてしまって本当にすみません。でも、あのタイミングで声を掛けてもらえて助かりました」
「お礼はアニスお手製のチョコレートケーキ、甘さ控えめ、グレープティ付きでいいですよ」
その日の午後八時。レジーナ・マリス号はラナタ星を出発した。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
長編となりました第五章ですが、本日で終了となります。
次回より第六章「第三の朱雀の門(燎の天の門)」へいよいよ向かいます。
さて、人助けに行き、危ない目に遭って、エルに「余計なものを掘り起こすな」と怒られたのですが、実は、今回の出来事が意外なことに繋がっていきます。それは、、、。
引き続きお楽しみください。




