4-4 魔獣の森
「厳しいなあ。ところで、君の言う怒っちゃった森に、どう話せば通してもらえるんだ?」
「大丈夫だと思うよ。たぶん、今の話を聞いてたと思うから」
「本当か?」
「うん。でも、森を壊さないって約束してよ」
「するぞ」
「よし。通っていいよ」
「オッ、ようやく許可が出たか?」
「ねえ、三角山まで行くんでしょう? 僕も乗せてって」
「なんだ、坊主の家はあの山の近くなのか?」
「まあね。ちょっと近いかな」
「あんな奥に住んでるのか?」
「僕の両親、この森の管理人なんだ。森のあちこちに見回り用の小屋があるんだよ」
「この森に管理人がいるなんて聞いたことねえぞ」
「だから、勝手に入る人間がいて、困ってるって言ってたよ」
「わりいな。今度から管理事務所に話を通すようみんなに言っとくよ。さ、乗りな。そうだ、名前なんて言うんだ?」
「グリファス」
「車に乗りこんで再び森へ入ると、あんなにひどかった雨がピタッと止んで、晴れてきたんだ。誰かが天気を操作してるとしか思えなかったね。
途中、腹が減ってきたから菓子パンを食べようとしたら、グリファスが、おいしい果物が実ってるからそれを食べようと言いだしてさ。
こんな鬱蒼とした森の中に、果物が実る木があるとは思えなかったけど、住んでるというだけあって森の中を熟知しててさ。
あちこちに実ってるいろんなものを採りまくったよ。
その後、三角山へ向けて走ってたら、グリファスに河沿いを行ったほうが近いと言われて、遅れてたから少しでも取り戻せるかと思って、暗くなってもひたすら走ったんだ。
さすがに午前零時近くになると疲れが出てきて、グリファスは寝ちまうし、次の日のことを考えて、河べりに車を停めて休むことにしたんだ。で、翌朝たたき起こされた」
「魔獣の狩場に住む謎の少年か。彼はその後どうしたんだ?」
「いなくなってたので、家に帰ったんだろうと言ってた」
「それで、確か、迎えに行って行方不明になったメンバーがいたけど、こっちはどうなったんだ?」
「こっちにはウェスフィンという少女が出てきた。
違うところは、同じ道を堂々巡りして抜け出せずにいたところに現れて、同じことを聞かれたそうだ。
そして、同じように果物を積んで、ベースキャンプをはさんだ反対側の大木の根元に停まってた」
「グリファスにウェスフィンか」
「何か思い当たることがあるのか?」
「いや、ちょっとね。ところで、そろそろ五時間たつけど、まだ着かないのか?」
「もうすぐ着く。あの丘を越えたところに、大きな岩が二つ並んでるのが見えてくる。その先だ」
マーティが前方を指したとき、目の前に、道を塞ぐように大木が横たわっていた。
手前で車を停める運転手が窓から顔をだし「なんだよこれ。もう少しなのに通れないじゃないか」と文句を言うと、後部座席から顔をだすマーティが「この大きさでは退かすのは無理だ。遠回りになるが迂回しよう」
大木に沿って左側に車を進めるが、その先は切り立った断層が三メートルくらいせり上がっていて、行き止まりになっていた。
「仕方ない。ここから歩こう。上空から見えないように、車は森の中に隠せ」
マーティがインカムで各車両に指示をだすと、車から出て基地の入り口へ向かって歩きだす。
月明りを頼りに森の中を進んでいくと「マーティ、ゆっくりでいい。焦るな」右脚が思うように動かないため、ぎこちなく歩く後ろ姿に声を掛けると「わかってる」少しぶっきらぼうに返事が返ってくる。
さらに進んでいくと、目標の大岩が見えてきた。
辺りに注意を払いながら近づき、岩の裏側へ回ると窪みに隠れているボタンを押して入り口をあけ、中へ入っていく。
この基地も地下にあった。




