50 ラナタ星
その日の午後六時。
定刻より少し早くラナタ星に着くと、スペースエアポートのロビーでは星王自ら迎えに来ていた。
王女が入星ゲートから出てくると衛兵たちが駆け寄り、星王のところまで引かれた赤いじゅうたんの脇に並ぶ。
「サントリーナ! 無事だったか!」
「お父様!」
二人が抱き合うと周りから盛大な拍手が送られ、映画のワンシーンのような場面に、TVカメラやレポーターが大騒ぎしている。
その後、入星ゲート前にいるロイたちのところへ行くと「わたくしを助けてくださった方々ですわ」
「そうか。王女を助けてくれてありがとう」星王が握手を求めてくるのでロイが応えると、最前列に陣取っていたカメラマンたちが一斉にシャッターを切る。
一通り撮影が終わると「パーティの用意がしてあるので、ぜひ我が城にお越し願いたい。そこで改めて礼をさせてくれ」星王が出口のほう向くと側近が手をあげ、外で待機している高級車まで衛兵が並ぶと、星王を先頭に歩いていく。
星王と王女が先頭車に、ロイたちは二台目に案内され、向かい合わせのシートに座ると車がゆっくり走りだす。
劇的なシーンを見にきていた人達から盛大な拍手が起こる中、エアポートの敷地から出ると、農業中心の星らしく、のどかな田園風景が続く。
いくつかの町中を通り、しばらく走って小高い丘を越えると石垣に囲まれた町が見えてきて、その町を見下ろすように、丘の上に石造りの大きな城が建っている。
町の入り口には大段幕が掲げられ、王女を助けだした勇士たちを迎えてくれた。
「すごい歓迎ぶりだな」車に向かって手を振る人達を見るマーティに「当然ですよ。王女が無事に戻ってきたんですからね。彼らは次期女王を失わなくて済んだんですよ」バーネットの隣に座っているイノンドが説明する。
艦にいた頃はいいところのお嬢様くらいにしか見えなかったが、彼らの歓迎を見て、すごい地位にいる人なのだと改めて実感する。
「ロイはこの星の星王になり損ねたのか」
『マーティはどっちの味方なの?』凄みあるシュールの声が響くので(素直に感想を言ったまでだ。俺は一般人だからな)
小声で呟くと「私も、憧れる。きれいなドレス、豪華なアクセサリー、華やかなパーティ、大きなお城。お姫様、みたい」想像しているアニスに「それと引き換えに自由がなくなるよ。それでもいいの?」
マーティの向かいのロイが苦笑すると「確かにそうだな。一般人のほうが気楽だし、自由があるほうがいい」
「手かせ、足かせがないほうが窮屈しないわね」アニスの向かいのバーネットが頷くと『でも、きれいなドレスに豪華なアクセサリーは女性の憧れだよ。それを着てパーティに出たいと思うよ』シュールはアニス側に付く。
「私たち、いいところしか、見えない……」と俯くので「ごめん。夢を壊しちゃったかな?」
「いいえ。華やか、あれば、陰ある」
車は歓迎ムードの町中を通り、丘を上がって大きな門を入ると、城壁の中から現れたのは、中世風の大きな城だった。
「これはまた見事な城だ」窓際に座っているマーティが見上げると「素敵。初めて、見る」彼のほうへ身を寄せて外を見るアニス。
そして、車はメイドが一列に並ぶ玄関前に着き、スーツ姿の執事らしい中年の男性がドアを開けて王女が外に出ると、メイドたちが一斉に「王女、お帰りなさいませ!」声を揃えて頭を下げる。
「すごい光景だな」場違いな感覚に襲われて戸惑うマーティ。
先頭車から降りる星王と王女が城内に入ると、先ほどドアを開けた執事が「お部屋にご案内いたします」と先導して玄関に入っていく。




