43-2 事後処理の副産物
「口の利き方を知らない女だ。無礼にもほどがある」側近たちは憤慨しているが、王女はニッコリ笑って「ロイ様。お父様がわたくしたちの帰りを、首を長くして待ってますわ。わたくしと結婚なされば、もう旅を続ける必要はなくなりますわ」
ロイの傍に来るので『コラ! ロイにくっつくな!』シュールがいくら怒鳴っても今の王女に聞こえるはずがなく、当然、離れるわけがない。
『離れろって言ってるでしょう!』
「王女。申し訳ないのですが、この話はお受けできません」
「エッ、なぜですの?」衝撃を受け、泣きそうな顔をすると「先ほど、わたくしのことはお嫌いでないとおっしゃったではありませんか」
「ロイ殿! 何を申されるのですか!」側近たちも驚き、詰め寄る。
「嫌いでなかったら即結婚、というのは極端すぎませんか?」
「わたくしと結婚なされば、不自由なく暮らせるのですよ」
「王女は一人娘ですよね? 僕も一人息子なんですよ。今はまだ父の跡を継ぐかどうかわかりませんが、他の星へ行くことはできません」
「では、わたくしがラナタ星を出ますわ」
「何を言うんですか。あなたが星から出てしまったら、ラナタ星はどうなるんですか?」
「ロイ殿のおっしゃるとおりです。王女が星から出ていかれてしまったら、ラナタ星はどうなってしまうんですか?」二人の側近が王女を挟んで訴えると「では、わたくしは、自分の幸せを考えてはいけないというのですか?」
「そういうわけではありませんが……」返答に困ると「とにかく、ロイ様がラナタ星に来ていただけないのであれば、わたくしが参ります!」宣言してリビングから出ていくので「王女!」側近たちが慌ててあとを追う。
『さっき、結婚は星のためとか言ってなかった? あれは建前?』
(どこで建前なんて言葉を覚えたんだ?)
『どうするの? ロイ』
「どうもこうもないだろう。無理だと話すしかないじゃないか」
『そうだけど、なんか難しそうな気がする』
「まあ、星を出るという話になれば、向こうの親が黙ってないだろう」
『そうかもね。いっそ身分を明かしたら? あれこれ言うより早いかもよ』
「そのほうが危ない気がする」
『玉の輿になると張り切っちゃうかな』
(どこで玉の輿なんて言葉を耳にするんだ?)
一時間後、台風の目の一つであるバーネットが荷物を持って戻ってきた。
「やはり、星に帰ったほうがいい」
「王女と結婚するの?」
「その話は断るよ」
「断れるの? 彼女の父親は星王なのよ」
「断るよ。ここで旅を終わらせるわけにいかないからね」
「そうなると、王女は付いていくと言うでしょうね」
「それは認めないよ」
「あなたは何もわかってないのね。相手は一星の王女なのよ。逆らえると思ってるの?」
「逆らうつもりはないよ。正当な理由を言って断るだけだ」
「そんなことが通ると思ってるの?」
「思ってるよ」言い切るので驚くが「あの王女が、生半可な説得に応じるとは思えないわ」
「王女の話は断るし、乗せ続ける気もない」
「なら、その場面を見届けさせてもらうわ」宣言してリビングから出ていくと、入れ違いにマーティが剣を持って入ってくる。
「あの様子じゃ、説得できなかったようだな」剣を渡すと『なんで除け者にするの!』
「シュールの声がうるさいからだよ。話ができなくなったら怪しまれるだろう」
『……じゃあ、大人しくしてる』
「ところで、バーネットは?」
「アニスが部屋に連れていった」
「そうか。けっこう尾を引くな」




