42 増える事後処理
そして二日が過ぎた日のお昼、バーネットが艦にやってきた。
リビングに入ってくると「ケガの具合はどうかしら?」と聞いてくる。
「まだ動かすのが大変だけど、落ち着いてきたよ」
「そう。でも、利き腕をケガしてしまったから不便でしょう?」
「そうでもないよ。僕は両方使えるんだ」
「あら、そうなの。器用な人ね」
「本当は左利きなんだけど、子供のころ、馬から落ちて左腕を骨折したことがあるんだ。その時、右手を使うことを覚えたんだよ」
「そうだったの」
「そういえば明日、星へ帰るんだって聞いたよ」
「ええ。やっとよ」
第一、第二研究室にいた研究員たちは、開発した薬の解毒剤を作るために宇宙保健局に移動したが、彼女を含む医務室にいた者やその他の研究者は引継ぎを行い、身元を登録して解放されることになった。
「家族の人に連絡は?」
「一昨日したわ」
「ビックリされただろう?」
「ええ。死んだと思って、お葬式をしてお墓を建てたと言われたわ」
「そうか」
「こうやって自由になれたのはあなたのお陰よ」
「みんなが力を合わせたからだよ。僕たちだけの力じゃない」
「でも、キッカケを作ってくれたわ」
「そのキッカケを作ってくれたのは、王女だよ」
「そうね。そういえば、王女はどうしてるのかしら?」
「この艦にいるよ。星まで送ってくことになったんだ」
「この艦に? どうして管理局の船じゃないの?」
「彼女の父親からぜひ来てほしいと、招待されたんだ」
「お礼を言いたいということね?」
「そうらしいよ。ところで、なにかあった?」
「実は、お願いがあって来たの」
「お願い?」
「イノンドから、牢に閉じ込められてた人達のなかで、帰る宛のない人達を乗せたと聞いたけど」
「人体実験室にいた人達が予想以上にいたから、部屋の空が無くなってしまったらしいんだ。臨時の船が来るまでの間だけ、一時的に乗せてるんだよ」
「そうなの」
「それで、お願いってどんな事?」
「彼らの世話を手伝わせてほしいの」
「エッ?」
「全員ではないけど、彼らの健康管理は私もしてたらか、役に立てると思うわ」
「ダメだよ。そんな事したら、星へ帰るのが遅くなってしまうだろう?」
「両親には話してあるし、納得してくれたわ。医者として、できる限りのことをしてきなさいって」
「でも」
「せめてそのくらいはしてあげたいの。一緒に解放される日が来ることを願ってきたのよ。社会復帰できるよう、手助けするのは当然だわ」彼女の熱意と一理ある理由を聞いて「わかった。じゃあ、ラナタ星を出発するまでお願いするよ」
「そんな短期間じゃ」
「それ以上はダメだよ」
「なぜ?」
「君の気持はわかるよ。一緒に頑張ってきたことも、彼らに関する情報を管理局に提供したことも、彼らに対する誠意も理解してる。でも、君の帰りを待ってる家族のことを考えないといけないよ」
「それは……」
そこへ、側近を従えたサントリーナ王女が入ってきた。
「まあ先生、いらしてたんですの」
「あら王女、ご機嫌いかが?」
「とても元気ですわ」
「それはよかったわ」
「いろいろとお世話になりました」
「私のほうこそ、お礼を言わなければいけないわ。王女がロイたちに助けを求めてくれたから、こうやって今の私がいるんですもの」
「お互い自由になれてよかったですわ。そうですわ。バーネットさんもラナタ星に来ていただいて、わたくしたちの婚約パーティに出席していただきたいわ」
「婚約パーティ?」
「ええ。わたくし、星へ戻りましたら婚約しますの。それに、助けていただいたお礼もさせていただきたいし、ぜひ、わたくしの星へお越しください」
「婚約されるの。それはおめでとうございます。幸運なお相手はどんな方なのかしら?」
「ロイ様ですわ」




