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ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~  作者: 夏八木 瀬莉乃
第五章 地下からの生還
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40 サントリーナ王女

 

 それから一週間後、イノンドが二十代前半くらいの女性を連れて病室へやってきた。


『誰? イノンドの知り合い?』早速チェックするシュール。


 ストレートの長い髪に黒目がちな大きい瞳。さほど身長はなく痩身(そうしん)で、良家のお嬢様とわかるようなブランド物のスーツを着ている。


 大きな花束を持ってベッド脇に来ると「ロイ様、おケガはいかがですか?」と声を掛けてきた。

「あの、失礼ですが、あなたは?」


「サントリーナ王女ですよ」イノンドが笑いながら説明する。

「エッ、王女?」

『本当に人間だったんだ……』驚くシュール。


 ロイたちは猫のときの彼女しか知らないので、人として会うのはこれが初めて。


「そうですか。すっかり良くなられたようですね」

「ロイ様のお陰ですわ」

『ロイ様だって』シュールに揶揄(からか)われて苦笑する。


「ロイ様がおケガをされて入院されているとお聞きして、心配いたしましたわ」

「もう大丈夫ですよ」


「来週末、退院されるとイノンド様にお聞きしました」

「大分元気になったんですが、担当医の許可がなかなか出なくて」


「退院前で申し訳ないんですが、実はまたお願いがありまして」イノンドが話しに入ってくる。「王女をあなたの艦に乗せていただきたいんです」


「王女をですか? でも、星から迎えの船が来てるんじゃないですか?」


「そうですが、わたくしの星へお越しいただきたいのです。助けていただいたお礼をさせていただきたいからですわ。もちろんイノンド様も」


「お招きいただいて光栄ですが、僕はまだここから動けない身ですし、ご両親があなたの帰りを待っておられますよ。早く戻られたほうがいいのではありませんか?」


「お父様とお母さまには無事を伝えてありますわ。その時お父様が、ぜひ、皆様をお連れしなさいとおっしゃってくださいましたの」


「ということなので、エルに聞いたんですが、部屋は用意できるが、王女を乗せるとなると、ロイの許可が必要だと言われましてね」


「そうですか。でも、早く戻って、ご両親に元気な顔を見せてあげたほうがいいのではないですか?」

「お気遣いいただいてありがとうございます。でも、皆様をお連れすると話してしまいましたから」


「そうですか……わかりました。では、星までお送りしましょう」

「ありがとうございます、ロイ様」


『ロイさまぁ』シュールがマネするので「王女、ロイでいいですよ」

「でも」


「そう呼んでください」

「……わかりました」


 しかし、王女の「ロイ様」は直らなかった。


『ロイさまぁ』

「シュール。怒るぞ」


『王女には怒らないのに?』

「怒らないんじゃなくて、怒れないの」


『なんで?』

「王女という立場にいるから」


『フウン、身分か』

「そうだよ。で、なに?」


『その王女だけど、私のこと覚えてるかな、と思って』

「アーッ!」


『さっき(しゃべ)ったとき、私の声が聞こえてないようだったから、人間に戻ったら聞こえないんだと思ったけど、覚えてたらヤバいでしょう? どうしようか? こっちから聞いて、忘れてたのに思い出した、なんて言われたらバカみたいだし』


「こっちから言わないほうがいい」

『でも、王女が他の人に話したら、その人が聞いてくるかもしれないよ』


「可能性としてあり得るな。そうなったら、その時考えるしかないか。王女がどう出るか、その時の状況で対応するしかないだろう」


『忘れててくれてれば一番いいんだけど』

「そうだな。一応、マーティとアニスに話しておこう


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