39-3 事後処理
殺人マリオネットの販売先リストを入手するために専用の資料室へ行ったとき、第一情報室の部長に潜り込んでいることがバレたため、同じ階の倉庫内に閉じ込めたところ、実は一日置きに見回りが来るため、すぐ解放されていたことが発端だったところから話しはじめた。
王宮のリビングへ、星王一家の見張りのためにマーティと行くと、普段は王宮にいるはずのない王宮護衛隊が待ち構えていたこと。
その護衛隊の罠に掛かり、捕まりそうになったときに謎集団の襲撃に助けられたこと。
裏庭で倉庫に閉じ込めたはずの第一情報室の部長に撃たれ、煙が充満する王宮の使用人の部屋に隠れたこと。
マーティの判断で、動けなくなった自分と、逃げ込んだ部屋に倒れていた男性がクローゼットの中に一時身を隠したこと。
イノンドに連絡を取ったマーティがバーネットたちを研究所へ迎えにいき、自分が隠れている部屋に戻ると政府特殊部隊の隊員に見付かってしまい、マーティが暴行を受けて肋骨を折ったこと。
その時、妹のロサ・モイシー率いるゲリラ部隊が助けにきてくれて、ロイたちを北エントランスのエレベーターまで運んでくれたことを、途中からマーティが送ってくれたメールを見せながら話す。
「そうですか。彼女たちがいてくれたから、今回の計画がうまくいったんですね」
「俺たちも、死なずに、済んだ」
「……そうですね」イノンドが何やら考え込む。
「ところで、研究所から救出した人達はどうなりましたか?」ロイが気になっていたことを聞くと「研究員たちは、宇宙警察局の船で事情聴取してます。人体実験室にいた人達は宇宙保険局の船に収容してもらい、一人ずつ身体検査して、今後の治療法を検討することになってます」
「そうですか。少しでも安心して生活できるくらいまで戻せるようになるといいですね」
「そうですね。ああ、そういえば、ロイに会いたいと言う人達がいましたよ。例の人体実験室にいた人達です。どん底にいた自分たちに、未来を考える希望をくれたお礼が言いたいと、しきりに言ってました」
「そんな大袈裟な」
「あなたに感謝してましたよ」
「彼らを助けたのは僕じゃない。ゲリラ部隊の彼女たちだ」
「……そうですね」
「ところで、肝心の王女はどうしてますか?」
「別の病院で検査を受けてます。明日、結果が出るそうですよ。今、ラナタ星から使いの人が来て付き添ってます」
「そうですか」
「今回はエルに協力していただいて、助かりました」
「エルが?」
「あなたの艦に、牢に閉じ込められていた身寄りのない人達を一旦乗せてもらったんです」
「そうですか」
「聞いてないんですか?」
「はい」
「では、彼はここには」
「何回か来てくれたそうですが、意識が戻る前だったので」
「そうですか」
「留守中のことは彼に任せてありますから、彼がいいと言ったのなら構いません」
「ありがとうございます」
その後、帰る宛のない人達は、保険局から迎えの船が来るまで、レジーナ・マリス号で預かることになった。
『そういえば、使用人の部屋で倒れてた男の人、どうなったんだろうね』シュールの言葉で思い出すマーティが、携帯のメモ欄に文字を打ってイノンドに見せる。
(使用人の部屋に倒れてた男はどうなったんだ?)
「ああ、彼も意識を取り戻して、今は一般病棟に移ってます。彼は、殺人マリオネットを買いにきた客でした。なんでも復讐したい人物がいるとかで。素人が危ないものに手を出したらいけませんね」
『復讐するために殺人マリオネットを買おうとするなんて、よほど相手を恨んでたんだね』男性の心境を考えるシュール。
「なんでも、せっかく築いた会社を乗っ取られた挙句、身に覚えのない横領疑惑を掛けられて、多額の借金を抱えることになったそうです。遺書を書いて自分は死んだことにして、復讐するつもりだったと言ってるそうですよ」
(そうなると、殺人未遂になるか?)マーティがまたメモ欄に打った文字を見せると「そうですね。体調が良くなったら調書を取ります。本人も反省してるので、情状酌量が付くでしょうね」
(その前に、会社を乗っ取った奴を調べる必要があるだろう。他にも同じような事をしてるはずだ)また打ち込んだ文字をイノンドに見せると「すでに調査を始めてます。弱者ばかり叩くことはしませんよ」と苦笑する。




