36-1 意外な救援
相変わらずのゴスロリファッションは暗闇で動くにはうってつけらしく、目の前に来るまで黒い塊にしか見えなかった。
「ここはわたくしたちが押さえますわ。ですから、早くお逃げになって」
「ケガをした、ロイが、クローゼットの、中なんだ」
「ロイ? ああ、お姉様が捜されている殿方ですわね? 大変ですわ。すぐにお助けしないと」
モイシ―はインカムのスイッチを入れると「皆さん、目的の方たちを見付けましたわ。お姉様が捜されている方がケガをされていらっしゃるそうなの。Dチームはこちらに来て、クローゼットの中にいらっしゃるケガ人を救出していただけます? 残りは周辺を包囲なさって、侵入者の阻止をお願いしますわ」
すると、森からゲリラ部隊員が出てきて、ロイが閉じ込められているクローゼットの蝶番を壊しはじめた。
「もう一人、ケガ人が、いる。手荒な、ことは、しないで、くれ」
「お声を出してはいけませんわ。もしかしたら、肋骨にヒビが入っているか、折れているかもしれませんもの」
「ああ、ちょっと、ヤバい」しゃべると痛みが走るのか、顔をしかめる。
「ケガ人はお二人いらっしゃるんですのね?」
「そう、だ」
「わかりましたわ」モイシ―はクローゼットのところにいる部隊員に伝えると向き直り「ロイ様をどこへ運びますの?」
「地下、研究所の、医務室だ」
その時、森の中で周辺を見張っているゲリラ部隊員が銃を撃ちはじめ、インカム越しに“隊長! 政府の特殊部隊が来ます!”と聞こえてきた。
「阻止していただけます?」と言うと、さらに複数の銃声が聞こえてくる。
その後、少しすると「隊長! クローゼットが開きました!」部隊員の一人が声を掛けてくるので「中の方々を担架へお願いしますわ。研究所へはどうやって行きますの?」マーティの横にしゃがむと「北、エントランス、横……」
「マーティ、それ以上しゃべらないで。ロイを手当てしたら診るから、動かず座ってて」
バーネットは担架に乗せられたロイに声を掛け、意識がないことを確認すると酸素マスクを付けて解熱剤と増血剤を打ち、腕と脚の傷を止血しながら、隣の担架に乗せられた部屋に倒れていた中年男性に、簡易の人工呼吸器を取り付けるようアニスに声を掛ける。
「あの、ロイ様は大丈夫ですの?」手当をしているバーネットにモイシ―が心配そうに声を掛けると「よくないわね。早く医務室へ戻って処置しないと危険だわ」
「隣の方は?」
「これから診察するから何とも言えないけど、向こうも意識がないからよくないわ」
「わかりましたわ。北エントランスから研究所へ行くんですの?」
「そうよ」
「では、ここからの行き方を教えていただけます?」
「アニス。代わるから、彼の様子を見ながら北エントランスへの行き方を説明してあげて」隣の担架で人工呼吸器を付けているアニスのところへ行く。
アニスがバーネットと交代してロイのところへ来ると、様子を見つつモイシ―に説明する。
「北、エントランス、この先。でも、通路、瓦礫、たくさん、通れない」
「まあ、そうですの。どなたか、担架が通れる場所を探してきていただけます?」すると、数名の部隊員が王宮内部に散らばる。
その間にも、奥の森では政府の特殊部隊を相手にゲリラ部隊が銃撃戦を続けているので、モイシ―はインカムで流れ弾がこちらへ来ないように、場所を移動するよう指示している。
その後、部屋で倒れていた男性の治療を終えたバーネットが、マーティの胸部にプロテクトを当てて包帯を巻きはじめたので、隣に屈み「どんな具合ですの?」と聞くと「たぶん、右側の肋骨が三本くらい折れてるわ」
「やっぱり、そうですの」
「早くレントゲンを撮って折れた骨の具合を確認しないと、肺やほかの臓器に刺さったら大変だわ」
そこへ、王宮内部に散っていた数名が戻ってきた。
「隊長、向かいの使用人の部屋が続きドアで繋がっていて、鍵を壊せばなんとか通れそうです」
「行きましょう。どなたか、彼に肩を貸してくださいます?」
マーティを立たせると両側から支える。
「皆さん、行きますわよ! 手の空いている方、先に行って安全を確保してくださいます?」
数名の部隊員が走っていくと、その後をアニスとバーネットがそれぞれ付き添う担架が続き、支えられてマーティが行くと、モイシ―は最後から、後ろを警戒しつつインカムで連絡を取りながら付いてくる。
使用人の部屋の続きドアを通り抜けると、その先の経路をゲリラ部隊が確保していた。
倉庫脇を通り、その先の会議室へと誘導していく。
王宮内はまだ煙が漂っているので護衛隊や政府の特殊部隊が王宮の中に入ってくる気配はないが、前庭での対戦が激化しているのか、銃声と爆音、王宮が崩れる範囲が広がっていた。




