35-2 救出するために
王宮の一階に着いてドアが開くと、北エントランスの右、東側だった。
『さっきは、反対の西側にある倉庫内のエレベーターに乗ったんだよね?』シュールが位置を確かめると「どうやらこの北エントランスは、緊急脱出用に作られたらしいな。西側のエレベーターは王宮に何かあったときに研究所へ逃げるため。反対に東側は研究所に何かあった場合の避難経路」
「その通りよ。今回のように何者かが乗り込んできたとき用に作られているのよ。さあ、急ぎましょう」バーネットが促すが、マーティは動かず煙の流れを見ている。
『どうしたの? 早くロイのところへ行こうよ』シュールが急かすと(もしかしたら、護衛隊が中に入ってきてるかもしれない)小声で答える。
『なんでそんな事がわかるの?』
(煙の動きを見ろ。さっきまで淀んでたのに、今は北側の通路へ向かって流れてる。何か起きた証拠だ。裏庭側で何かあったのかもしれない)
『裏庭側で? じゃあ、もしかしたら、ロイがいた部屋も何かあったかも。ロイが見付かっちゃう!』
(大丈夫だ。あの部屋に入ってクローゼットを開けないかぎり、見付かることはない。危険なのは俺たちのほうだ。ここで奴らに見付かったら、一斉に入ってくるぞ)
『どうするの?』
(周りに目を配れ。何か異変を感じたら教えろ)
『わかった』
マーティを先頭に、ロイたちがいる部屋へ向かって北側の通路を戻りはじめる。
月明かりで、夜のわりに明るい通路を裏庭から見えないように屈んで進んでいると何回も王宮が揺れ、その度に天井や壁がパラパラと落ちてくる。
「イノンドは何してんだ? 王宮の裏側まで崩れるほど流れ弾が当たるのは、さっきより広範囲で撃ち合いをしはじめたということか?」
『ロイ、大丈夫かな』落ち着かないシュール。
「これ以上、天井が落ちてきたら担架が通れないわ」落ちてくる破片を払い除けるバーネット。
長い通路を東へ向かって進んでいると『マーティ止まって!』シュールの声が聞こえないバーネットがマーティの背中にぶつかる。
「なんで急に止まるの!」
「シッ!」
『伏せて!』
マーティがバーネットの頭を押さえる。
『窓の外を誰かが通ってる』
「チョッ……」
「シッ!」
息を殺して、シュールが何か言ってくるのを待つ。
少しすると『もう大丈夫。行ったよ』と聞いてマーティが手を離すと「何? どうしたのよ」文句を言うバーネットに「敵か味方かわからないが、何者かが裏庭を徘徊してる。大声出すな」注意すると再び歩きだす。
裏庭に面した通路が終わり、両側に使用人たちの部屋があるところまで戻ると、一層、壁や天井が崩れて通路に散乱している。
「どういうことなの? 撃ち合いは前庭でやってるんでしょう? どうして裏側がこんなに壊れてるの?」不安になってくるバーネット。
「マーティ」アニスが不安そうに声を掛けてくる。
「確かにおかしい」考えるマーティ。(どういうことだ? 護衛隊が王宮を壊すようなことはしない。となると、他の何かが動いているのか? 前庭にいる謎集団か?)
『マーティ。早くロイのところへ行こうよ』シュールが急かす。
「これじゃ担架が通れないわ」通路に散らばる瓦礫を見るバーネット。
「他に通れるところを探すしかないな」嫌な予感がしてくるマーティ。
『煙が引いてるかな?』心配になるシュール。
さらに進んでいくと、マーティの不安が大きくなっていく。
煙が進行方向へ流れだしたからだ。
(煙の流れが変わった。ということは、この先に大きな煙の出口があるということだ。まさか……)
予感は的中してしまった。
北側の使用人の部屋のドアが吹き飛んで、跡形もなくなっている。
慌ててロイがいる部屋を覗くと裏庭に面した奥の壁が崩れ落ち、その先の森が見えていた。
『イヤァ! ロイーッ!』シュールが悲鳴を上げる。




