34-2 緊急事態へ
部屋から出るマーティに『これからどうするの?』と聞くと「イノンドに連絡を取る」携帯を取りだして再び電話するが、ノイズがひどくて繋がらない。「ダメか。仕方ない。王宮の電話を使おう」煙を避けながら王宮内を西に向かって通路を走っていく。
『どこに電話があるの?』
「ここから一番近いのは、北エントランス横にある警備室だ」
『もっと近くにないの?』
「外線に繋がる電話はそこまで行かないとない。他は全部内線電話だ」
『すごい煙だよ。そこまで行けるの?』
「無理にでも行くしかないだろう」
煙が漂う通路を口を袖で覆いながら走っていると『まだ煙が引かないんだね。早く引けば通りやすいのに』苛立つシュールに「それはマズい。煙が引けば護衛隊が入ってくるかもしれない」
『そんなのわからないよ』
「そうだ。入ってくるか来ないかわからない。だが、入ってこない確率は0じゃないだろう?」
『……うん』
しかし、王宮の中心部へ行くほど煙が濃くなり、ほどなくして、通れないほど煙が充満していたため、マーティは足を止めた。
「ダメだ。これ以上、先に進めない」
『ほかに北エントランスへ行く方法はないの?』
「いくつかあるが、この様子では、王宮内部を通るのは無理だろう。そうなると、迂回していくしかなさそうだな」Uターンすると王宮の北側の通路を進む。
しばらくは両側に使用人の部屋が続くが、途中から裏庭に面した右側の部屋がなくなり、壁の上半分が飾り窓になって裏庭が見えるようになった。
その裏庭には王宮護衛隊がいるので、見付からないように腰を屈めて進む。
「ここまで来れば北エントランスはすぐだが、この態勢はきついな」
入り口の両脇に大きなオークの木が立つ北側のエントランスが見えてくると、通路の突き当りから裏庭の様子を見つつ、エントランスを左へ、王宮内部へ向かって進むと、銃声と、それに伴う振動で王宮が揺れるのを感じはじめた。
謎集団と王宮護衛隊の撃ち合いが激化しているのがわかる。
『王宮を壊したりしないよね?』不安になるシュール。
「謎集団が何者なのかわからないから、何とも言えないな」判断しかねるマーティ。
エントランス奥の待合室は思った以上に煙が充満しているが、待合室手前の左側にある警備室にはなんとか入ることができ、受付カウンターに置いてある金の縁がついた白い受話器を取ると、イノンドへ電話をかける。
コール音が鳴り続けるが、忙しくて電話のバイブルに気付かないのか、なかなか出ない。
「こんなときに何してんだ! 早く出ろ!」煙が濃くなってきたのでしゃがむと “はい”待っていた声が聞こえてきた。
「イノンドか?」
“マーティ! 大丈夫ですか?”
「そっちにも何かあったのかと心配したぞ」
“すみません。ちょっとアクシデントがあったのもですから”
「何があったんだ?」
”人体実験室の人達が研究室の警備員に見つかりそうになったので、待機場所を変更してたんですよ”
「大丈夫なのか?」
”何とか誤魔化しました”
「そうか。ところで、気付いてると思うが、緊急事態だ」
“何が起きてるんですか?”
「時間がないから手短に話す。俺たちのことがバレてて、今、王宮護衛隊に追われてるんだ。ロイが脚を撃たれて、出血がひどい。それと、謎の集団と護衛隊本体が前庭で撃ち合いをしてる」
“ロイは大丈夫ですか?”
「何とか持ってるが危ない。もう一人、逃げ遅れた男がいて、こっちも危ない」
“誰ですか?”
「わからない。煙を吸い込んでるようだ」
“今どこにいますか?”
「ロイは王宮の東端、裏庭に面した使用人の部屋だ。俺は北エントランスの警備室から電話してる」
“王宮護衛隊は、前庭のどこら辺で謎の集団と撃ち合いしてますか?”
「前庭の真ん中から始めたが、今は移動してるかもしれない」
“わかりました。そちらへは私の部隊を行かせます。まずはロイたちを救出しましょう。研究所はそろそろ煙が引くころですので、そちらへ運びましょうか。医務室の先生に協力してもらいますので、研究所へ向かってください。行けますか?”
「近くに地下へ行くエレベーターがある」
“では、すぐに行ってください”
マーティは電話を切ると警備室から出て、北エントランスのホールへ戻った。
ホールの左、西側に倉庫があり、その中に地下へ降りるエレベーターと非常階段がある。
裏庭に気を付けながら倉庫に入ると、ドーン! という音とともに王宮が大きく揺れた。




