31 作戦その九 ラスボス捕獲
午後六時。
アニスとバーネットが夕飯を運んできたので、いつものように牢の隅からトレーを受け取る。
『アニス、準備はいい?』シュールが声を掛けると微笑むので『準備OKってことだね』
ロイがバーネットを見ると、彼女は軽く頷いて次の牢へ向かった。
午後六時三十分。
ロイとイノンドが警備服に着替えているとマーティが来たので、最終確認をおこなう。
そして、作戦開始の午後六時五十分。
予備室に置いてある発煙筒から煙が出てくると一斉に火災報知機が鳴り、それを合図に各々が行動を開始する。
牢から出たイノンドは警備室へいき、交代要員を待っていた警備員たちに「緊急事態発生! 牢の鍵をすべて解除し、直ちに避難しろ!」と指示を出す。
さすが現役の管理職、迫力が違う。警備員たちが上司と勘違いするのも無理はない。
イノンドは警備室のマイクを使い “研究所内で火災が発生しました。これから警備員が誘導しますので、焦らず、冷静に指示に従い、行動してください”と、牢にいる人達に呼び掛ける。
実は、この放送が脱出開始の合図。
イノンドと捜索課のメンバーが警備室にいたとき、各牢を回って作戦内容を説明していたのである。
そのため、大騒ぎする人はなく、何も知らない警備員たちだけが慌てていた。
イノンドは、そんな彼らを連れて牢へ行くと、中から出てきていた人達を誘導して外へ向かった。
アニスとバーネットは、医務室の隣にある休憩所にいた警備員たちと一緒に、奥の部屋で寝ている病人たちを連れて避難しはじめる。
動かせない重病患者は、設備の点検という名目で、事前に他の場所へ移動させていた。
研究室では、警備室にいた警備員たちが、研究員や、奥の工場で働いている作業員たちを誘導しはじめる。
人体実験室にいる人達は、精製工場で働いている人達が持ってきたレインコートと帽子をかぶり、一緒に避難していた。
そして、ロイとマーティは星王一家が逃亡しないように見張るため、警備員として星王の護衛に加わるべく、マーティの案内で王宮へ向かい、大広間で呑気にお茶を飲んでいる星王たちのところへ向かった。
「失礼します!」慌ただしく部屋に入ると「何事だ! 騒々しい!」星王が不機嫌に怒鳴るので「詳しいことはわかりませんが、研究所内で火災が起こったもようです」ロイが説明すると「本当に火事なのか?」星王の隣に立っている鋭い目付きをした指揮官と思われる男が聞き返してくる。
「あ、は、はい。そのように、研究所から、連絡がきました」
「そうか。おい、念のために確認してこい」指揮官と思われる男が、ドア横に立っている兵士二名に指示を出すと、部屋から出ていく。
(あの制服は王宮護衛隊だ。普段は王宮警備隊が警護に当たってるはずなのに、なんで護衛隊がここにいるんだ?)
予定と違うことが起きているので、ロイとマーティは嫌な予感を覚えた。
「あの、何かあったのでしょうか?」ロイが探りを入れると「ン? ああ、姑息なネズミが入り込んだらしい。今、炙り出してるところだ」
「ネズミ、ですか?」(あの指揮官は)ロイには見覚えのある顔だった。「では、邪魔をしてはいけませんので、我々は失礼いたします」マーティを促して部屋から出ていこうとすると「待て。本当に火事なら、星王ご一家を安全な所へお連れすることが優先だ。確認に行った部下が戻るまでここにいろ」
「ですが」
「なんだ?」
「いえ。ここで待機いたします」邪魔にならないようにドア横に移動する。
壁際まで下がり、責任者に顔が見えないように帽子を深めにかぶると「マーティ、ヤバいぞ。あの指揮官は、僕とイノンドが対応した取引現場に来てた、王宮護衛隊の責任者だ」
「なんだと。では」
「いや、ここに来たときは最低限の変装をしてたから、大丈夫だと思うけど、わからないな」
「では、バレる前に、早くこの場から離れたほうがいい」
「しかし、何かキッカケがないと動けない」
「研究所の確認に行った隊員たちが戻ってくるのを待つしかないか」




