28 データ収集完了
午前二時前。
「ただいま」調査員たちが戻ってきた。
「お帰りなさい。どうでしたか?」ロイが声を掛けると「助かったよ。お陰で約束を破らずに済んだ」にこやかな顔が返ってきたので「それはよかったですね。ああ、調査はほとんど終わってますから、確認してください」資料を返すと「こんなところまでやってくれたのか? 仕事が早いな。ありがとう、徹夜しなくて済みそうだよ」
「何か変わったことはなかったですか?」二週間ぶりに家に帰ったという別の調査員が聞いてくるので「部長が、急に体調が悪くなったと言って、先に帰りましたよ」と言うと怪訝な顔をして「体調が悪くなった? 昨日まで長期休暇を取って、今日はずいぶんと元気だったのに」
不審がるので「休み疲れが出たんじゃないですか? 久しぶりの長期休暇で、ストレス発散のために羽目を外してたでしょうから」苦し紛れに言い繕うと「それは言えてる。部長、休暇中は釣り三昧すると言ってたからな」一応、納得したらしい。
「じゃあ、僕たちはこれで引き上げます」
「今回はありがとう。お疲れ様」
二人はリストを移し終えたチップを持って、資料室から出た。
更衣室で着替えながら「これで作戦の半分は完了したな」ロイがホッとすると「俺は、予想外の出来事が多くて疲れた」首を回すマーティ。
『まだ気を緩めちゃダメだよ。終わってないんだから』シュールが注意すると「わかってるよ」素直に返事をするロイ。
二人は更衣室から出ると、地下五階へ戻った。
換気口を通り、管理室へ戻ると改めてホッとする。
「マーティ、コーヒーを入れといてくれないか? 僕は戻ってきたことを伝えにいってくる」
管理室から出ると、例の男の牢へ向かった。
「よお、今夜は戻ってくるのが早いな」今回、男のほうから話し掛けてきた。
「何か変わったことは?」
「ないよ。みんな静かにしてた」
「そうか」余裕あるロイを見て「どうやら上手くいったようだな」
「いろいろあったけど、何とか完了したよ」
「それはよかった。いい報告が聞けて、安心して寝られるよ」
「心配かけて悪かった」
「気にするな」男は奥の牢へ向かって「みんな、作戦は順調に進んでるってよ。安心して寝られるぞ」小声で伝えると、各牢から合図の手が出てくる。
「頼もしいチームワークだな」
「みんな、あんたたちに期待してるんだ」
「なんとか、その期待に応えられそうだ。今夜動く。早めに身の回りの整理をしといてくれ」
「荷物なんてほとんどない。行動開始時間は?」
「作戦開始時間は午後六時五十分。僕たちの仲間が迎えに来るから、一緒に脱出してくれ」
ロイが管理室へ戻ると、マーティがサーバーからコーヒーをカップに入れる。
「作戦の内容は理解してくれたか?」
「ああ、大丈夫だ。作戦開始時間には、シーツをマント代わりに被っててもらい、その上から奥の精製工場の作業員が着てるレインコートと帽子を被ってもらって、一緒に脱出するよう話した」
「さすがに、あの姿で外部の人間に会わすわけにいかないからな」
「そうだな。さて、いよいよ今夜だ」渡されたコーヒーを飲むと「クライマックスだ。盛大に行くぞ」
部屋の時計を見ると、午前四時を回ったところだった。




