26 作戦その八 データ収集 再チャレンジ
その日は午後六時に夕飯を食べ、四十分にマーティが来ると、今夜のことについて話し合った。
「私は何をしたらいいですか?」自分の役割が終わったのでイノンドが聞いてくる。
「王女の様子を見にいってもらえませんか? もし話ができるようなら、今回のことを詳しく聞いてください」
「わかりました」
「僕たちはもう一度資料室へ行って、リストを入手してきます」
待機室から出るとイノンドに医務室の場所を教え、ロイとマーティアは研究室へ向かった。
第一研究室でいつものチェックを済ませると、昨日と同じく、人体実験室の監視をするよう言い渡され、実験室に入るとマーティは管理室へ行き、ロイは例の男の牢へ行ってドアを叩く。
「やあ、今夜も同じ仕事でよかったな」
「これから行ってくるから、戻ってくるまで頼むよ」
「ああ、大丈夫だ」
ロイが管理室へ戻ると、マーティが換気口の蓋を開けて待っていた。
『マーティ、パスワードわかった?』シュールが聞くと「今度は大丈夫だ」余裕のある顔で答える。
昨日と同じ経路を辿って白衣に着替えると、第一資料室へ入る。
「ここまでは順調だな」
ところが、奥の資料室に入ると、三人の調査員がコンピュータのキーを叩いていた。
「何か追加でも出たのか?」彼らの一人がロイたちに気付き、振り返るので「ああ、急に追加が出た」マーティが持っているファイルを見せると「そっか。お互い大変だな」向き直ってキーを叩きだす。
『ヒエエエエッ、ビックリした』動悸がするシュール。
ロイとマーティは反対側の空いている椅子に並んで座り、コンピュータの電源を入れる。
「マズいぞ。どうする?」前を向いたままマーティに声を掛けると「今夜しかないんだ。なんとか手を考えるしかないだろう」後ろの調査員たちを見る。
『ねえ、どの位かかるか聞いてみたら?』シュールに言われ、ロイが調査員たちに聞こえるように「こんな日に限って突然残業が入るなんて、ついてないな」隣のマーティに声を掛けると「ああ、お陰で今夜の予定がパアだ」
「なんだ、君たちも突発だったのか」聞きとめた調査員の一人が話に入ってくる。
「皆さんも同じなんですか?」ロイが話を振ると「そうなんだよ。急に取引が決まったらしくて、クライアントの身元調査が回ってきたんだ」
「では、今夜は徹夜ですか?」
「そうなるだろうね。参ったな。今日は娘の誕生日で、早く帰るって約束してたのに。さっき電話したら、帰ってくるまでケーキを食べないで待ってると言われてね」苦笑して肩を落とすと向き直る。
「俺も予定が入ってたのに、ドタキャン続きで誘われなくなりそうだよ」
「参るよな。もう少し何とかしてくれないと。俺なんか二週間も家に帰ってないんだぜ」次々不満を漏らす。
「取引はいつなんですか?」
「なんでも明晩らしいよ」
「確かに急ですね」
『こりゃ参ったわ』ガッカリするシュール。
「何かいい手はないか?」ロイに聞くと「今考えてるよ」キーを叩きながら案を模索する。
『データを移すだけでしょう? こっそりやればバレないんじゃない?』シュールの提案に「途中でモニターを覗かれたらどうする」とマーティに言われ『バレます』自分で却下する。
その後、対策案を模索する。
『睡眠薬入りの飲み物を飲ませる』
「持ってない」
『お酒を飲ませて、酔わせた隙に』
「仕事中に酒は飲まない」
『殴って気絶させる』
「こんなときに冗談言うな」
その時、後ろから話し声が聞こえてきた。
「なあ、夜食の時間を調節して、家に帰ってきたらどうだ?」
「バレたらただじゃ済まないぞ」
「俺たちが口裏を合わせれば大丈夫だよ」
「しかしなあ」
「娘さん、ケーキ食べないで待ってると言ってるんだろう? 帰ってやれよ」
「帰ってあげたほうがいいですよ」ロイが話に入る。「こうしましょう。今、午後九時前です。午前二時まで僕たちがいますから、その間に、それぞれの予定をこなしてきてください」
「それじゃ君たちに悪い」
「構いませんよ。困ったときは助け合うのが仲間じゃないですか」
「しかし、それでは調査が間に合わない」
「僕たちが途中まで進めておきますよ」
「それはダメだ。君たちだって仕事を持ってるのに、俺たちの分を押し付けるわけにいかない」
「今度、僕たちが困ったとき、助けてください」
「しかし……」
「さあ、早く行ってください。時間がもったいないですよ」
三人は顔を見合うと「すまない。次は俺たちが代わるから」
「時間までには、必ず戻ってきてくださいね」
「もちろんだ!」三人の調査員はロイに資料を渡すと、何度もお礼を言って出ていく。




