25 バレた弱み
二人は急いで待機室へ戻り、ロイはそのまま牢へ行くとマーティは警備室へ行ってイノンドと交代して、彼が牢へ戻ってくると、すぐにモーニングコールが鳴った。
「今日はずいぶんと戻ってくるのが遅かったじゃないですか。心配しましたよ」イノンドが着替えながら聞いてくるので「交代がギリギリだったんですよ。そっちはどうですか?」
「完了しました。ここへ連れてこられた人達のリストは、このディスクに移してあります」脱いだ警備服のポケットからUSBスティックを見せる。
「そうですか。すみません、僕たちは失敗しました」
「何かあったんですか?」
他の牢に聞こえないように資料室で立ち往生した話をすると「アハハハハハッ! そんな事があったんですか!」
「笑いごとじゃないですよ!」
「ああ、すみません。しかし、あのマーティがケーキのことでそんなに怒りだすとは、想像できませんよ。そうですか、お二人とも甘党だったんですね。だからエルが、二人にお灸を据えるには、おやつ抜きが一番効くんだと言ってたんですね」
「エルがそんなこと言ったんですか!」
「この前、アニスが焼いたフルーツケーキを一緒にご馳走になったとき、そう言ってましたよ」
「エルの奴、余計なことしゃべりやがって」
『イノンドにも弱みを握られちゃったね』楽しそうなシュール。
「私は、おやつ抜きだなんて言いませんよ」クスクス笑うイノンド。
「とにかく、今夜もう一度行ってきます」
「何があるかわかりませんから、十分気を付けてください」
そこへ、アニスとバーネットがやってきた。
「おはようございます」バーネットが声を掛けてくるので「ああ、おはようございます」着替え終わったロイが答えると「あら、どうしたんですか? 目が充血してますよ」
「いろいろと考えごとをしてたら眠れなくなってしまって」
『大分頭を使ったもんね』シュールの言葉を聞いて何かあったと気付くアニスが「私たち、できること、やる。言って」心配そうな顔をするので「大丈夫だよ。ありがとう」
『アニスのほうはどう?』シュールが聞くと微笑むので『順調なんだね、よかった。ところで、王女様はどうしてる?』また微笑むので『順調に回復してるんだね』
「おや、二人とも手にたくさんの引っ掻きキズを作って、どうされたんですか?」イノンドが二人の指を見ると「ちょっと。シリアンと格闘したものですから」バーネットがアニスと一緒に苦笑して「元のシリアンに戻ったものですから、捕まえるのが大変でした」と言うので「ああ、そういう事ですか。それは大変でしたね」
バーネットたちは彼らに朝食のトレーを渡すと、次の牢へ向かった。
「さあ、食べたら少し寝ましょうか」イノンドがフォークを取ると「そうですね」ロールパンを食べはじめるロイ。
食後、コーヒーを飲んだにも拘らず、ベッドに入るとすぐに寝息を立てはじめた。
午後三時になると、アニスが起こしにきた。
「ティータイム」
「ああ、もうそんな時間なのか」ロイはベッドから出ると、備え付けの洗面所で顔を洗う。
「軽食、持ってきた」牢の隅からパンケーキが乗ったトレーを差しだすので「ありがとう。助かるよ」受け取るとテーブルに置く。
『ふわああああ、なあにい? もう朝あ?』寝ぼけているシュール。
「もう三時を回ってるんですか? かなり寝てしまいましたね」寝起き声のイノンドが枕もとの腕時計を見るので『三時? そっか。夕べは徹夜したんだ』
「差し入れをもらいましたよ。温かいうちに食べましょう」ロイがコーヒーカップを持つ。




