24 作戦その八 データ収集
奥の部屋は思っていたより広く、最新鋭のコンピュータが備え付けられていた。
「設備投資にこれだけの金が掛けられるのか。相当儲かってるな」椅子に座るマーティが目的のデータを引きだす。
極秘情報というだけあって、パスワード入力画面が出てきた。
「パスは調べてあるのか?」隣に立つロイに「調べたが幾つかあって、どれがこのリストを開くパスなのかわからない」
「だったら、片っ端から入れていくしかないだろう」
マーティはポケットからメモ用紙を取りだして、書いてあるパスワードを端から入力していくが、どれも違っていた。
「クソッ! ここまで来たのに!」紙を握りつぶすと、腕時計を見るロイが「今日はここまでだ。明日、出直そう」
「もうそんな時間なのか?」腕時計を見ると午前六時になろうとしている。
「戻るぞ。コンピュータの電源を落とせ」
マーティが電源を落とすとロイはポケットからリモコンを取りだし、ドアを開けると一つ前の部屋へ戻る。
『ロイ。どこからそのリモコン持ってきたの?』不思議そうに聞くシュールに「警備員の一人から失敬したのさ」
『いつ?』
「マーティに押されて警備員に倒れ込んだろう」
『アッ、もしかして、ロイを突き飛ばしたの、ワザと?』
「そうだ」マーティが答えるので『うーむ、さすがだ』感心している間にマーティがキーボックスにパスカードを差し込み、ロイがリモコンでドアを開けると更衣室へ行き、警備服に着替えて地下五階へ戻った。
メイン通路から研究室に入り、入り口横の予備室に入ると換気口の蓋を取り、マーティが先に入ると、あとから入るロイが蓋を閉めて来た通路を戻っていく。
午前六時四十分、何とか人体実験室の管理室へ着いた。
「一時はどうなるかと思った」無事に戻った安心感からか、疲れが出てくる。
「もう少し時間があれば詳しく調べられたんだが」
「何とか切り抜けられたんだ。あまり気にするな。とにかく、明日がラストチャンスだ。パスワード、何とか調べてくれ」
「わかった」
「では、戻ってきたことを話しにいってくる」
コンコン。
ドアを叩くとベッドに横になっていた男が起き上がり、ロイの顔を見ると、ニヤッと笑って歩いてくる。
今回、男は靴下を履いているので、金属音の足音はしなかった。
「どうだった?」
「なんとか順調にいってる」
「なんとかな」フッと笑うと「こっちは完璧だったぞ」
「そうか。僕たちより上だな」
「これが最初で最後のチャンスだからな。俺を含め、ここにいる奴らは半月後に処分される。データを取り終えた厄介者さ。だから、あんたらが最後の望みなんだ」
「……本当なのか?」
「ああ。こんなふうになっちまったが、死を迎えるのなら、処分されるんじゃなく、寿命を全うしたい」
「それは当然の権利だ」
「嬉しいねえ。こんな俺らにそんなこと言ってくれるなんて」
「当たり前のことだ」
「掛けてるぜ。あんたらに」
「絶対に助け出してやるよ」
「おい、みんな、聞いたか? 生き延びられる可能性が出てきたぞ。どんな事でも協力するよな?」小声で話し掛けると、各牢のドア越しから親指を立てた手が出てくる。
「自由になれるまで、もう少しの辛抱だ」
「いくらでも待つさ。自由になれるのなら」
「じゃあ、交代の時間だから戻るよ」
「明日も同じ仕事につくのか?」
「たぶんな」
ロイが管理室へ戻ると、マーティがコーヒーを入れて待っていた。
「どうだった?」
「みんな、僕たちを信用してくれたよ」
「そうか」
「ここの牢にいる人達は、半月後に処分されるそうだ」
「何だと!」
「アイツらは、一体、何人殺めてきたんだろう?」
「ますます責任が重くなるな」
「けど、絶対やり遂げないといけない」
「もちろんだ」
午前七時五分前になると、例の責任者が交代要員を連れてやってきた。
「ご苦労。交代の時間だ」
「お疲れ様です」ロイが声を掛けると「何か変わったことはなかったか?」部屋の中を見回すので「何もありませんでした」マーティが答える。
その後、引き継ぎを済ませて責任者と警備室へ戻り、業務日報を入力すると「では、お先に失礼します」一礼すると部屋から出る。




