20 更なる救出者
部屋の中には四脚のイスとテーブル、小さな棚の上にコーヒーメーカーと紙コップが置いてあり、十四インチのフラットテレビとノート型パソコンが置いてある。
「勤務時間は明日の午前七時まで。時間がきたら交代の者がくる。それまで、中にいる者の監視をするんだ。緊急事態のときはそこにある非常ボタンを押せ」壁に付いている赤いボタンを指すので「はい」ロイが返事すると戻っていった。
「監視役とはツイてるな。交代時間まで時間ができた」
「資料室を突きとめられたのか?」
「ああ。一階上の地下四階にある」
「そうか。わりと近いな」
「しかし、問題がある。時間がなかったので十分に調べることができなかった」
「どこまで調べられたんだ?」
「資料室に入るためのパスカードは手に入れたが、その先がどうなってるのかわからない」
「出たとこ勝負か。厳しいな」
「どうする?」
「とにかく行ってみよう。時間がないんだ」
「そうだな」
「しかし、時間はできたけど、メイン通路までの間に研究室と実験室がある。そこを通らずに抜け出す方法があるか?」
「心配するな。研究室内部は調査済だ」
「では、牢内にいる人達に事情を説明してくる」管理室から出ると、一番近い牢へ向かった。
鋼鉄のドアに付いている小窓から中を覗くと、どす黒い両手足をした中年男性が、ベッドに腰掛けて本を読んでいた。
「ちょっといいかな」声を掛けると男は振り向き、ムスッとした顔をして歩いてくる。
カツン、カツン、カツン。
『靴を履いてないのに、どうしてあんな音がするんだろう?』シュールが気味悪そうに呟く。
「何か用か?」ふてくされた顔をしてぶっきらぼうに聞いてくるので「あ、ああ」戸惑いながら返事をすると「ほう、あんた新入りだな。フン、俺の手脚がそんなに珍しいか?」
「あ、いや、申し訳ない」視線を逸らすと「申し訳ない? 謝るなんて変な奴だな。お前らがこんなふうにしたんじゃねえか」俯くロイを見て「あんたの神経じゃ、ここの監視は無理だ。ほかの牢の奴らはもっとひどい。まいってしまう前に、他の仕事に変えてもらいな」
「それは……」
「あんた、何者だ?」
「エッ?」
「あんた、ここの警備員じゃねえな?」驚くロイを見ると「やっぱり」
「なぜそう思うんだ?」
「一つ目の理由は、申し訳ないなんで言う奴はここにいない。二つ目は、俺の姿を見て、そんな悲しそうな顔をする奴もいない。大抵は、化け物を見るような、蔑んだ目を向ける」
「……」
「あんた何者だ? なぜここに来た?」
「それは……」
「俺の手脚の心配をしてるのか?」
彼の腕は通常の三倍くらい太く、血管が浮き出ていて、まるで鋼鉄の甲冑を着ているように見える。
「……痛く、ないのか?」
「ああ。こんなになっちまっても、まだ物を掴むことはできる。しかし、神経はイカれちまってるみたいで、痛みをまったく感じない」ゴンゴンとドアを叩く。
その音は、金属同士を叩き合わせているような鈍い音だった。
「シッ、大きな音を立てないでくれ。今、騒ぎを起こされたら困るんだ」
「ホウ。ということは、何か企みがあって潜り込んできたんだな」
「……ああ、そのとおりだ」
「フウン。ま、そいつは止めたほうがいい。見付かって俺たちのようになるのがオチだぞ。そうなる前に退散しな」
「あんたたちを助けにきたんだ」
「エッ、何だって?」
「あんたたちを助けにきたんだよ」
「……本気で、言ってるのか?」
「もちろん。だから協力してほしい」
「フフッ、やめとけ。無理だよ」
「無理かどうか、やってみなければわからないだろう!」強く言い返されて男は驚くが、少しの間ロイを見ると「本当に、助けてくれるのか?」真意を確かめるような眼をする。
「本当だから、ここまで来たんだ」
「……わかった。で、俺は何をしたらいい?」
「明日の午前七時まで、騒ぎを起こさないでほしい」
「それまでの間、何をするんだ?」
「証拠となる資料を集めにいく」
「……わかった。ほかの連中には俺から話しておく」
「頼む。ここでバレたら、二度とチャンスはないんだ」
「それは十分にわかってる。気を付けていけよ」
ロイは牢から離れると管理室へ戻った。




