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ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~  作者: 夏八木 瀬莉乃
第五章 地下からの生還
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20 更なる救出者

 

 部屋の中には四脚のイスとテーブル、小さな棚の上にコーヒーメーカーと紙コップが置いてあり、十四インチのフラットテレビとノート型パソコンが置いてある。


「勤務時間は明日の午前七時まで。時間がきたら交代の者がくる。それまで、中にいる者の監視をするんだ。緊急事態のときはそこにある非常ボタンを押せ」壁に付いている赤いボタンを指すので「はい」ロイが返事すると戻っていった。


「監視役とはツイてるな。交代時間まで時間ができた」

「資料室を突きとめられたのか?」


「ああ。一階上の地下四階にある」

「そうか。わりと近いな」


「しかし、問題がある。時間がなかったので十分に調べることができなかった」

「どこまで調べられたんだ?」


「資料室に入るためのパスカードは手に入れたが、その先がどうなってるのかわからない」

「出たとこ勝負か。厳しいな」


「どうする?」

「とにかく行ってみよう。時間がないんだ」

「そうだな」


「しかし、時間はできたけど、メイン通路までの間に研究室と実験室がある。そこを通らずに抜け出す方法があるか?」


「心配するな。研究室内部は調査済だ」


「では、牢内にいる人達に事情を説明してくる」管理室から出ると、一番近い牢へ向かった。



 鋼鉄(こうてつ)のドアに付いている小窓から中を(のぞ)くと、どす黒い両手足をした中年男性が、ベッドに腰掛けて本を読んでいた。


「ちょっといいかな」声を掛けると男は振り向き、ムスッとした顔をして歩いてくる。


 カツン、カツン、カツン。


『靴を()いてないのに、どうしてあんな音がするんだろう?』シュールが気味悪そうに(つぶや)く。


「何か用か?」ふてくされた顔をしてぶっきらぼうに聞いてくるので「あ、ああ」戸惑いながら返事をすると「ほう、あんた新入りだな。フン、俺の手脚がそんなに珍しいか?」


「あ、いや、申し訳ない」視線を()らすと「申し訳ない? 謝るなんて変な奴だな。お前らがこんなふうにしたんじゃねえか」(うつむ)くロイを見て「あんたの神経じゃ、ここの監視は無理だ。ほかの牢の奴らはもっとひどい。まいってしまう前に、他の仕事に変えてもらいな」


「それは……」

「あんた、何者だ?」


「エッ?」

「あんた、ここの警備員じゃねえな?」驚くロイを見ると「やっぱり」

「なぜそう思うんだ?」


「一つ目の理由は、申し訳ないなんで言う奴はここにいない。二つ目は、俺の姿を見て、そんな悲しそうな顔をする奴もいない。大抵(たいてい)は、化け物を見るような、(さげす)んだ目を向ける」


「……」

「あんた何者だ? なぜここに来た?」


「それは……」

「俺の手脚の心配をしてるのか?」


 彼の腕は通常の三倍くらい太く、血管が浮き出ていて、まるで鋼鉄(こうてつ)甲冑(かっちゅう)を着ているように見える。


「……痛く、ないのか?」


「ああ。こんなになっちまっても、まだ物を(つか)むことはできる。しかし、神経はイカれちまってるみたいで、痛みをまったく感じない」ゴンゴンとドアを叩く。


 その音は、金属同士を叩き合わせているような(にぶ)い音だった。


「シッ、大きな音を立てないでくれ。今、(さわ)ぎを起こされたら困るんだ」

「ホウ。ということは、何か(たくら)みがあって(もぐ)り込んできたんだな」

「……ああ、そのとおりだ」


「フウン。ま、そいつは止めたほうがいい。見付かって俺たちのようになるのがオチだぞ。そうなる前に退散しな」


「あんたたちを助けにきたんだ」

「エッ、何だって?」


「あんたたちを助けにきたんだよ」

「……本気で、言ってるのか?」


「もちろん。だから協力してほしい」

「フフッ、やめとけ。無理だよ」


「無理かどうか、やってみなければわからないだろう!」強く言い返されて男は驚くが、少しの間ロイを見ると「本当に、助けてくれるのか?」真意を確かめるような眼をする。


「本当だから、ここまで来たんだ」

「……わかった。で、俺は何をしたらいい?」


「明日の午前七時まで、(さわ)ぎを起こさないでほしい」

「それまでの間、何をするんだ?」


「証拠となる資料を集めにいく」

「……わかった。ほかの連中には俺から話しておく」


「頼む。ここでバレたら、二度とチャンスはないんだ」

「それは十分にわかってる。気を付けていけよ」


 ロイは牢から離れると管理室へ戻った。


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