13-2 研究室
そこは何かを精製するところらしく、大きく取られた空間に何本もの大きなパイプが通り、ゴウゴウと低い音を立てている。
(こんなに大きな工場を地下に作ってたのか)
ここで働いている作業員たちは、みんなロイたちと同じ服装をしている。
「ここで薬品の元となる薬草からエキスを抽出してる」
責任者が指さす先に数名の作業員がいて、横に置いてある大きな箱の中から、茶色い乾燥した草のようなものを取り出して機械に入れている。
「あの箱の中にあるのは、薬草を加工しやすいように乾燥させ、同じ長さに切って束ねたものだ」
端から入れた薬草が長い工程を経て、透明な液体となって反対側から出てくる。
その部屋を一通り回ると、最初の第一研究室へ戻った。
「さて、君たちには各ブロックのチェックをやってもらう」
チェック項目が書かれたファイルを渡し、説明を始める。
「右腕に赤い腕章をつけた者がブロックの責任者だ。その者にチェック項目を読みあげ、データを取り、終わったら入り口横にいる担当者へ渡す。ああ、注意しておくが、研究室内で携帯など電波を出す電子機器は使用しないように。電波障害を起こしてコンピュータが止まってしまうんだ。では始めてくれ」
二人は割り当てられた場所へ向かった。
ロイが担当するブロックの責任者は、半分白髪が混じった五十代半ばの小柄な男で「チェックの時間だ」と声を掛けると「ハイ」と小声で返事をして、大型コンピュータのほうへ歩いていく。
チェック項目を読みあげ、終わると入り口のところへ戻って担当者にファイルを渡すと、マーティは先に戻っていたので「今日は初めてだったから少し時間が掛かったが、明日からはもっと早く確認するように。時間のロスはほかの仕事を遅らせるからな」
「承知しました」一礼して先ほどの警備責任者のところへ行くと「今日はこれで上がっていいぞ。明日は午後八時からだ。遅れるな」と言われ「はい。お先に失礼します」一礼して部屋から出た。
研究室から出ると、地下五階がどのようになっているのか調べる。
通路は正方形のようになっていて、北側の通路の真ん中に運搬用エレベーターがあり、そのエレベーターに向かって左半分が研究室で、残りの右半分の北側が待機室になっている。
待機室の反対側、南側の右半分が医務室になっていて、待機室分、医務室があることになる。
「これだけ大きい医務室が必要ってことか」事の深刻さが思っていたものより悪いことに危機感を感じると「それだけ、人体に対して有毒な薬品類を扱ってるということだ。細心の注意を払わないといけないぞ」
さて、問題は残った西側の部分。
そこには何も書いていないドアがいくつか並び、中央付近に奥へ続く通路がある。
その通路の突き当りに警備兵が二人、銃を装備して立っていた。
何気なく通りすぎる。
「あの奥、怪しいな。いかにも何かあるといってるみたいだ」
「あとで調べておく」
二人はどこに何があるのか覚えると、待機室内の警備室へ向かった。
「お帰りなさい。その顔を見ると、うまく潜り込めたようですね」
牢内を写しているモニター前に座っていたイノンドが後ろのテーブルに移動してくると、二人の表情を見て進行具合を察知する。
「中へは入れましたが、想像してたより、かなり大規模なことをしてました」イノンドの向かいに座ると「どんな事ですか?」ロイの暗い表情から深刻さを読みとり、厳しい顔をする。
研究室内で行われている人体実験の様子を話すと「まあ、そんな事だろうとは予測してました」肩を落として頷く。
「やはり、麻薬を作ってるというのは違ってました。麻薬より恐ろしいものを造ってます」
「狂気と化した悪鬼を造る薬ですね」
「はい。証拠写真を撮ってきました。役立ててください」ペン型の小型カメラを渡し「そちらはどうですか?」と聞くと「こっちは順調に行ってますよ」
イノンドは、警備室のコンピュータからメインコンピュータにアクセスして、牢の中に閉じ込められている人達のデータを引き出していた。
この後、地下五階の構造を説明して今後の行動について話し合い、警備兵の交代時間前にロイとイノンドは牢へ戻り、マーティは次の交代要員と代わるため、警備室に残った。




