11 新たな問題の概要
今回は残酷な描写が出てきますので、苦手な方はブラウザバックしてください。
「それにしても、こんな所に入れられるとは」イノンドが牢の中を見るので、思い出すロイが「そうだ! 殺人マリオネットのことを知ってたでしょう!」
「ああ、知ってはいましたが、この星で造られてるとは思いませんでした」
「では、管理局は、殺人マリオネットのことは把握してるんですね?」
「はい。確か三年くらい前から、この星域を含む近辺で、奇妙な殺人事件が起きてるんです」
「奇妙ですか?」
「そうなんですよ。とても人間業とは思えないような手口で、殺人が行われてるんです」
「どういう手口なんですか?」
「例えば、猛獣にでも噛み殺されたようにバラバラにされてたり、すごい力で引き契られてたり、とかです」
「スプラッタの世界だ……」映像が浮かんできて吐きそうになると『さっき気持ち悪い思いをしたばかりなのに、どうしてもっと気持ち悪くなるようなことを聞くの!』追い打ちを掛けられてシュールがさらに怒る。
「それで、その人間離れした犯人について、何かわかってるんですか?」気を取り直して話を進めると「ある事件で収容した遺体を解剖したところ、人工的に体内組織が変えられてたことがわかりました」
「造りだされた超人ということですか?」
「そうです。目撃者によると、女性や子供もいるらしいんですよ」
「もしかして、用途によって使い分けてると?」
「どうやらそうらしいです」
「なんてことを……その超人が、ここで造られてる殺人マリオネットだというんですね?」
「そうだと思います。話を聞いてピンときました」
「そうですか……」
「こんな悪行、絶対に見過ごせません!」
「人間を殺人の道具にして売り捌き、私腹を肥やすなんて、人の姿をした悪鬼だ!」
「こんな非人道的なことは、何を引き換えにしても許せません!」
「それにしても、こんな大事になるとは思わなかった」
思わぬ方向へ事態が動いていく。
「麻薬製造でさえ許すことができないのに、さらに殺人兵器製造がプラスされましたからね」イノンドは事の成り行きを頭の中で整理しているようだ。
そこへ、シリアンが戻ってきた。
「ああ、お帰り」声を掛けると「ニャア」と鳴いてロイの膝の上に乗る。
「とにかく、どちらも見過ごすことはできません。情報を集めましょう」イノンドが意を決したように声を掛けてくるので「途中で作戦を変更するのは危険ですが、事が事ですからね。この機会を逃したら、捕まえることはさらに難しくなるでしょう。潜り込んでるアニスとマーティに、この事を伝えないといけない」
「それと、この事に関して、調べてもらわないといけません」
「そうですね」ロイはシリアンを見ると「マーティに会えた?」
「ニャン」
「そうか。これからボイスメールを作るから、それを彼に渡してくれるかな?」
「ニャ!」
返事を聞くと、ロイは右脚のブーツ底に隠しておいたカードタイプの伝言メモを出すと『ロイ。元の大きさに戻りたい』シュールが声を掛けてくる。
剣は十五センチの長さになってチェーンを通され、ロイの首からぶら下がっている。
(今、元の大きさに戻ったら、見付かって取り上げられてしまうだろう。それに、イノンドがいるんだぞ)
『やっぱり無理か。仕方ない、我慢する』
伝言カードのスイッチを押して新たにわかったことを吹き込み、シリアンの首輪に取り付けると「じゃあ、頼んだよ」
「ンニャ!」ひと鳴きすると鉄格子の間から出てく。
後ろ姿を見送ると「マーティの報告を聞いたあとで作戦を変更しましょう……どうしたんですか?」イノンドが難しい顔をして考え込んでいる。
「ちょっと気になる事がありまして」
「どんな事ですか?」
「もしかしたら、麻薬を作ってることと殺人マリオネットを造ってることは、関連があるんじゃないかと思うんです」
「どういうふうにですか?」
「この星域は植物の研究が盛んなところです。解剖の結果、殺人マリオネットは体内組織を変化させて造られてます。兵士たちもそんな事を言ってました。ということは、研究の途中で、細胞を劇的に変化させる成分を含んだ植物を作り出してしまったのではないかと思うんです」
「それで?」
「この星は麻薬売買リストには載ってませんでした。もしかしたら、麻薬を作ってるのではなく、人間を超人に変えてしまう成分を含んだ植物を栽培してるのではないでしょうか」
「それを、王女は麻薬と勘違いした」
「そうです」
「勘違いしてしまった原因が、大量に同じ植物を栽培してるからだというんですね?」
「はい。だからこそ、こんな地下施設を作ったんだと思うんです」
「辻褄が合いますね」




