4 猫の正体
艦に戻ると、エルに見付からないようにリビングへ向かった。
猫はキョロキョロと部屋の中を見回している。
「さてと、どうしたら楽に話せるか。何か案がある?」猫を中央テーブルに乗せると、ロイが声を掛ける。
『文字が書けると一番楽なんだけどね』
「シュール、それは無理だとわかってるだろう?」
「ペン、口、くわえる?」
「それも無理だよ。力が入らないだろうから、字は書けないよ」
「いい方法を思いついた。ちょっと取ってくる」マーティが部屋から出ていく。
しばらくして戻ってくると、テーブルの上に座っている猫の前に、一枚の大きな紙を置く。
「なるほど。これはいい案だ」
紙には五十音が表になって書かれていた。
「ロベージたちが文字の練習に使ってるものだ」
「これで話ができるよ」猫に向かって「さて、最初の質問は君の名前だ」と言うと、猫は躊躇することなく、右前脚で文字を指していく。
【サントリーナ】
「次に、どうして君は人間の言葉がわかるんだ?」
この質問の答えには、一同、度肝を抜かれた。
【わたくしは、この星から三つ東へ行ったラナタ星の王女です。
三ヶ月ほど前、回遊の途中でこの星の王室の従事者に連れ去られ、薬を打たれて地下室に閉じ込められています。
この猫は王室で飼われているシリアンという猫で、助けを呼ぶために乗り移りました】
『王女様だって!』ビックリ仰天のシュール。
「地下室に閉じ込められてて、しかも、助けを呼ぶために猫に乗り移ったって? SF映画じゃあるまいし、信じられないよ」眉唾な話に作為を感じるロイに「信じられないが、そう言ってここにいるんだぞ」テーブルの上に座っている猫を指すマーティ。
「それはそうだけど、いくらなんでも」
「もしこの話が事実ならば、大変なことだぞ」
「そうだよな」考えを切り替えると「どうして僕たちを捜してたんだ?」質問を続ける。
【わたくしに気付いていただける方を捜していました】
「なるほど」納得する四人。
「たまたまアニスが気付いたのか」
「ロイ。彼女、助ける。話、本当、だったら、大騒ぎ、なってる」
「そうだな。どうして閉じ込められたんだ?」と聞くと「ニャアア」と鳴いて俯くので「何か複雑な理由があるな」猫の態度に疑惑を抱き「とにかく、この事が本当なのか確かめよう」
ロイはテーブルの下からキーボードを出すと3D機能のボタンを押し、テーブル中央にモニターを映しだすと、この星のニュース番組のサイトへアクセスして、近辺で起きている事件欄をチェックする。
「あったぞ」
トップページに大きな見出しがでていた。
記事の内容は、三ヶ月前、数名の侍女と一緒に回遊していた、ラタナ星のサントリーナ王女の宇宙船が何者かに乗っ取られ、王女だけがさらわれたというもの。
その一ヶ月後の記事をチェックすると、続報が載っていた。
行方不明になっている王女の足取りはいまだ掴めず、ラナタ星は大騒ぎになっていること。
そして、ラナタ星の星王が多額の賞金を懸けて、情報を集めている内容が載っていた。
最近の記事では、王女はすでに遠くへ連れ去られてしまっているのではないか、と書かれている。
「君の話は本当だったのか。これで信じるよ」
「ニャ!」
「ロイ、どうする?」アニスが心配そうな顔をするので「まずは、詳しい状況を把握するために、情報を集めないといけないな」シリアンを見ると「さて、君が言い渋ってる話を聞かせてもらうことが最初だ」
彼女はしばらくの間考えていたが、右前脚で文字を指しはじめる。
【ウッドラフ星の王室では、内密に麻薬を製造し、売り捌いています】
「何だって! 王室が麻薬売買してると言うのか!」想像もしていなかったことが出てきた。
「呆れたな。それでは警察も関与してる可能性があるぞ」度肝を抜かれるマーティ。
「恐らく、広範囲に渡ってトップクラスの人物を抱き込んでるな」
「規模が大きすぎる。俺たちでどうこうできる問題じゃない」
「助ける、無理?」
「まさか。敵が王室なら、こっちもそれに見合った味方を付ければいいんだ」
「誰、いる?」
「いるさ。なあマーティ」
「ああ、うってつけの人物がいる。宇宙管理局、捜索課」
「イノンド!」
「王女が行方不明になってるのであれば、彼のところに捜索依頼が来てるだろうし、麻薬製造犯を逮捕できれば、一挙両得の手柄だ。それに、王室について調べなければならないから、彼の力を借りれば早いよ」
「早速、エルに頼んで呼んでもらおう」携帯を出すマーティに「その前に、エルに事情を話したほうがいいよ」
「ああ、そうだな……」席を立つと作戦会議室へ向かった。




