2 ダイクロイックアイ
次の日も四人は街へ出ていった。
相変わらずアニスの「あれ何?」が続く。
特に公園が気に入ったらしく、芝生の上に座り、草の感触を楽しんでいる。
その彼女のそばへ、一匹の猫が近寄ってきた。
「猫ちゃん、お散歩?」
「首輪が付いてる。飼い主と一緒に来たんだろう」首輪についている鈴を触るマーティ。
「ヘェ、この猫オッドアイだよ。それもダイクロイックアイだ」猫の目を見ているロイに『ダイクロイックって何?』シュールが舌を噛みそうになりながら繰り返すと「瞳の色が左右で違うのをオッドアイと言って、その中でも、一つの眼球で色が二色なのをダイクロイックアイと言うんだ。これは虹彩という瞳の部分の遺伝子異常らしいけど、すごく珍しいんだよ」
「本当、黄色と、青、二色」猫の右目をのぞき込むアニス。
「きれいな毛並みをしてるな。きっと血統書付きだろう」
薄いグレーのしなやかな身体をアニスに摺り寄せている。
「猫ちゃん、名前は?」猫の頭を撫でていると、ピピッ、ピピッと音が鳴った。「もうお昼か」ロイの腕時計が正午を知らせる。
「何か食べに行くか」マーティが立ち上がると「じゃあね、猫ちゃん。お帰り」声を掛けてアニスも立ち上がる。
「なに食べる?」ロイがマーティに聞くと「公園の入り口横にホットドック屋があった」指をさすので「いいね。それにするか」
公園の入り口近くまで戻ると『ロイ。あの猫が付いてきてるよ』とシュールに言われて振り返ると「ニャア」と鳴く。
「ご主人のところに帰らないと心配するよ」
「この近くに住んでて、いつもここへ来てるんじゃないか?」注文を済ませたマーティが戻ってくると「一緒、食べる?」アニスが嬉しそうに猫に話しかける。
三人はホットドックを受け取ると、また芝生のところへ戻った。
「アニス、あげたい気持ちはわかるが、人間の食べ物は味が濃すぎて猫に向かないんだ」パンをあげようとするのをマーティが止める。
「よく知ってるな」
「以前、付き合ってた子が大の猫好きで、その時に覚えた」
「ヘェ、そうなんだ」
「でも、猫ちゃん、お腹、空いてる」アニスの腕に前足を乗せ、ホットドックを食べようと首を伸ばしている。
「ソーセージは味付けした肉だからダメだ。茹でただけの鶏肉や白身魚ならいいんだが」
「向こうに串焼きの店があるぞ。あそこなら生肉があるんじゃないか? 茹でてくれるか聞いてみよう」ロイは立ち上がるとホットドック屋の奥にある屋台へいき、しばらくすると、紙皿に茹で肉を乗せて戻ってきた。
「事情を話したら、モモ肉を茹でてくれたよ」
紙皿を猫の前に置くと、匂いを嗅いで勢いよく食べはじめる。
「それとオマケ」別の紙皿を芝生の上に置く。
「フレンチドックか。子供の頃よく食べた」
「これ、何?」
「アニスは知らないのか。食べてみればわかるよ。こうやって食べるんだ」ロイのまねをしてかぶりつくと「ホット、ケーキ? あっ、ソーセージ」
「うまいだろう? 鶏肉をくれたからそのお礼で買ったんだ」
「初めて。おいしい」
「なんだ、もう食べ終わったのか?」猫が見上げているのに気付き、紙皿を見ると、山盛りだった鶏肉を完食していた。




