35-3 おやつ抜き期間だけど
「ところでエル、何かあったのか?」ロイが話題を変えると「ああ、さっきの打ち合わせのときにでた装飾品のパーツの検品をする件なんだけど」
「何か問題でも起きたのか?」
「強力な追っかけについて何も話さなかったろう? 注文したパーツの箱にまた爆弾が仕掛けられる可能性があるからさ。クラリー夫人たちにもしものことがあったら大変だから、その点をどうするが聞きにきたんだ」
「それがあったな。まあ、危害を加えるようなことはしないと思うけど、さらわれる危険性があるから、外部の人と会うときは、念のため護衛を付けたほうがいいな」マーティに聞くと「そうだな」頷くので「今、イノンドに護衛を付けてくれるか依頼してるんだ。もし変装して現れたら捕まえられるチャンスだからね。きっと了解してくれるんじゃないかな」
「そこまで手配してるなんて、さすがエルだ」
「そう。機転が利くんだよな」
「煽てても、おやつ抜きは解除しないよ」
「ダメ?」
「仕方ない。おやつ抜き期間分、食べるか」
「……マーティ」
「僕もそうしよう」
「……そう言うと思ったよ」
「二人、甘党、知らな、かった」ロイたちとエルの対照的な顔を見て目を丸くすると「だから、この二人にはおやつ抜きが一番効くんだよ」
「知られたら一番困る奴にバレるなんて、ついてないな」
「誰でもわかるよ。昼食後、二人してカフェに出てるティータイム用のお菓子を物色してるだろう?」
「そうか。あれがマズかったのか」
「いまさら気付いても遅いよ、マーティ」
真剣に悩む二人を見てクスッと笑うアニスに「笑いごとじゃないよ。僕たちにとっては大問題なんだからね」とても深刻なことなんだ、と言わんばかりの口調に「ごめん、なさい」と言いつつ笑ってしまう。
「彼女に文句言うのは筋違いだろう? ケーキおいしかった。また焼いたらご馳走してほしいな」
「エルにもあげるの?」
「おやつ抜き期間を延長してほしい?」
「俺は言ってないから除外しろ!」間髪入れずにマーティが訴えるので「僕を見捨てる気か!」と言うロイに「何言ってんだ! これ以上おやつ抜き期間を食らうのはごめんだ!」
「嫌ならいいよ」
「そんなことない! 今のはいつもの冗談。本気で言ってないよ!」
「何度も言うけど、口は禍の元だからね」
「以後、十分に注意させていただきます」
「ま、いいでしょう」言い残すとリビングから出ていく。
『アハハハハッ! 怒られてんの!』大笑いのシュール。慌てた二人の顔がよほどおかしかったらしい。
「まさか、シュールがエルを呼んだのか?」
『そんな事できるわけないじゃん。エルには私の声が聞こえないんだよ』
「そうだけど、タイミングがピッタリ合ったじゃないか」
「さっきは本当に焦った」動悸が治まらないマーティが「アニス、いい加減に笑うのをやめてくれないか?」眉間にしわを寄せると「ご、ごめん、なさい。切羽、詰まった、顔、初めて、見た。いたずら、見付かった、子供、みたい。彼に、勝てない」
「エルに勝てる奴がいると思うか?」マーティに聞くと「もしいたら、俺はそいつを崇め奉るぞ」
そう聞いて、なお笑うアニス。
『でも、こうやって笑うことができるようになったのはいい事だよね。これからどんどんやってもらおうよ』
「冗談じゃない! その度におやつ抜きにされたらたまったもんじゃない!」
「やめろ! 金輪際、その言葉は聞きたくない!」
『でも、エルに最大の弱みを握られちゃったから、二人にその気がなくても、起こる可能性があるよ』と言われ、言葉が出ない。
『これから大変だね』
「他人事だと思ってるだろう」
「こっちの身になってみろ」
文句を言いつつ、二人で残りのチョコレートケーキを平らげていく。
それから三日後、電気室の修理のために星へ降りると、思っていたよりドックの設備が整っていたため、当初の予定より二日早く修理が終わり、離陸すると、アイスゾーンを抜けてバーニングゾーンへ向かった。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
今回で第四章が終了しました。
次話より第五章に入りますので、引き続きお楽しみください。




