32-3 状況の確認
「シュールは、今回の事について何も知らないと言ってたけど、お師匠様のところに来たあと、どうするとか聞いてなかったのか?」
『それは……』
「そのことは聞いてたんだな?」
『……うん』
「そのことは話せない?」
『……うん……』
「なんで?」
『……言っちゃダメって……』
「言われたのか?」
『……うん』
「誰に?」
『それは……』
「誰に言われたんだ?」と聞くとまた黙り込むので「どんなことが書いてあったんだ? 話せるところだけでいいから話してくれないか?」
『……うん……』
「シュール。少しだけでいい。ヒントをくれ」
『……うん……あの……母様から……手紙をもらったの』重い口を開く。
「手紙? 母親からの?」
『……うん』
「その手紙にはなんて書いてあったんだ? 話せるところまででいいから、教えてくれないか?」
『……うん』返事をした後、少しして『時が来たら、この剣の持ち主が、あなたの前に現れます』
「何だって!」
『その者と一緒に各門を通り、それぞれの門を管理してる者たちを連れて、ここへ戻ってきなさい。その者たちは、窮地にある我らを、救ってくれるでしょう』
「時が来れば、この剣の持ち主が現れるか。それがロイだったと言うのか?」
『……うん』
「続きには、持ち主の詳細が書かれてるんじゃないか?」
『それは……』
「それは?」と聞くと答えないので「書いてあるが、今は言えないか?」
『……うん』
「仕方ないな」マーティはため息を吐くと「他に話せることはあるか?」
『あとは……』言い渋るので「今回はここまでか」
「しかし、衝撃的なことが書いてあったな」
「ああ。今回の事は、百年前には起こるとわかってたということだ」
「窮地にある我らか。状況から考えると、原因となる出来事か何かの予兆が確認されたとき、すぐに行動できるよう前もって準備していた、というところか」
「何か起きるとそこまでわかってたのなら、直接、原因をその時に潰せば大事にならなかったんじゃないか?」
「それができないとわかったから、事前に準備したと考えたほうがいいんじゃないか?」
「……なるほど。そういう考え方もできるな」
「ゴーツリーが言ってた、精霊界に禍が起きるとき、聖なる力を持った青き剣が現れる、と口伝で伝わってるということは、以前にも同じような禍が起きて、その時も、この剣を持つ尋ね人と呼ばれる人物が現れたということになる」
「そうだな。過去、どのような禍が起きたのか知りたいな。どのように行動して、どのように事態を治めたのか。ヒントが掴めるかもしれない」
「確かにね。シュールは、以前に起きた精霊界の騒動の話とか聞いたことないか?」
『う~ん、聞いたことがあるかもしれないけど、覚えてない』
「まあ、そうだろうな」
「で、その母親の手紙の続きは、いつになったら話してくれるんだ?」
『それは……』
「話していい時期も書いてあるんだろう?」
『……うん』
「まだ先か?」
『……うん』
「えらく歯切れが悪いな」
『だって、ロイたちがすごく困ってるのに、なんにもできないんだもん……』
「シュール」
『ごめんなさい……』
「シュールが謝る必要ないよ」
『でも……』
「何も知らないで、ずっと剣の中にいたんだったら、僕たちと同じだろう?」
『でも……』
「手紙の続きは気になるけど、話せと無理強いできないからな。でも、話せる時が来たら、ちゃんと教えてくれよ」
『うん……』




