30 口は禍の元
彼らが帰るとエルが新しいコーヒーを入れ「お疲れ様」三人にカップを渡す。
「こんなときに、厄介ごとは勘弁してほしいよ」困ったようにロイが呟くと「今回は不可抗力だ」他人事のようなマーティ。
「ところで」声を掛けてくるエル。「彼女を紹介してくれないの?」アニスを見るので「ああ、そうだ。まだ紹介してなかった。彼女はアニス。新しいクルーだよ」アニスを見ると「彼は通信担当のエル。裏の艦長かな」
「何言ってんだよ。鉄砲玉のようにどこかに行ったっきり、何日も連絡を寄越さないで、出発当日に無理難題を押し付けたうえに、大勢引き連れて戻ってくるから、僕が代わりに対応してるんだろう」
「あれは……申し訳ないと思ってる」
「そんなこと言われても、俺たちは被害者だったんだぞ」
「連絡はしようよ、マーティ」
「……そうだな」
「とにかく、騒がしいところだけど、仲良くやっていこう」
「は、はい。お願い、します!」立ち上がり、深々と頭を下げるので「そんなにかしこまらなくていいよ!」
「エルが怖いこと言うから、アニスが怯えるじゃないか」
「怖いこと?」
「ロイ。なにも本人の前で言うことないだろう」
「本人の前で?」
「……」
「二人とも、当分おやつ抜きだね」
「エル! 今の冗談わからない?」
「わからない」
「今のは彼女の緊張をほぐそうと思って言ったんだ。星の外に出るのが初めてだから、艦に来てからずっと緊張してて、冗談言えば少しは気が楽になるんじゃないかと思ったんだよ。本当はいつも感謝してるんだ」
「エルがいてくれるから、俺たちは自由に動けるんだ」マーティが同意すると「ま、いいでしょう。けど、人をダシに使うのはよくないよね。なので、三日間、おやつ抜き!」
「エル!」
「ちょっと待て!」
「あ、エルさん。ごめん、なさい。私の、せい」
「君が謝ることじゃないよ。星から出るの初めてなんだ。じゃあ緊張するね。でも、大丈夫だから、心配ないよ」
「は、はい!」
「じゃあ、僕は仕事に戻るから」
「エル! ちょっと待て!」ロイが慌てて止めると「口は禍の元だろう? 気を付けないとね」
「いや、だから!」
「エル! 話は終わってないぞ!」
二人を無視して会議室から出ていく後ろ姿を見送ると「マズいことになった」真剣に悩むロイに「回避するための対策を考えろ!」焦るマーティ。




