28 帰還
午後一時半。
首都マルジェス市に着くと、ロイたちは中央広場で車から降りた。
「いろいろとありがとうございました」ロイが運転席に回ってゴーツリーに声を掛けると「思いもしなかった展開になって不満があるだろうが、必ず解決できる。そう信じて先に進むんだ」
「はい。頑張ります」
「アニスのことを頼むよ」ロイの隣にいる彼女に「無事に戻ってくるんだぞ」笑顔で声を掛けると「おじ様も、体、気を付けて」
走り去る車を見送ると、アニスが借りているアパートへ向かった。
慣れない雪道を滑らないように歩いていると「付けられてないか?」何気なく周りをチェックするマーティ。
「たぶん監視されてると思うけど、この人混みだから、手は出してこないよ」
「そうかもしれないな。とにかく、行方不明になる前に、早く艦へ戻ろう」
「持ち逃げされるか?」
「ロイは可能性がある」
「やめろよ」
三人はなるべく人通りの多い表通りを選び、アパートへ急ぐ。
目的のアパートに入るとアニスが奥の部屋からトランクを持ってくるのでマーティが持ち、鍵を一階の管理人に渡すと、スペースエアポートへ向かった。
そのエアポートが見えてくると、ロイがエルに電話をかける。
「エルか? 僕だ」
“ロイ! 今どこにいるの?”
「エアポートの近くまで戻ってきてる」
“そうなんだ。目的のほうはどうだった?”
「なんとか無事に終わったよ。そうだ。女性を一人連れていくから、部屋の手配をしといてくれないか?」
“誰なの?”
「新しいクルーだよ」
“ロイのほうで必要な人?”
「まあね」
“わかった。手配しとくよ。パスとIDカードは作らなくていいの?”
「個人パスとIDはあるから、あとで乗務員として登録してくれ。詳細はあとで連絡する」
“了解。ところで、ロイに会いたいという人が来てるよ”
「僕に? 誰?」
“宇宙管理局、捜索課の人だよ”
「捜索課? 本物か?」
“身分証明書を見せてもらった。本物だよ”
「そうか。きっとゲリラ部隊のことだろう」
“そう。ロイたちの予想は当たってたよ”
「すぐ戻るから、もう少し待っててもらってくれ」電話を切ると「捜索課が来てるのか?」マーティが聞いてくるので「ああ。僕に会いたいと言ってるそうだ」
レジーナ・マリス号に戻ると、先にアニスを部屋へ案内した。
彼女は初めて見る戦闘艦の内部を、物珍しそうに見回している。
「とても、広い。迷子、なりそう」不安そうな顔をするので「大丈夫だよ。そのうち慣れるから」
三人が居住区へ行くと、子供たちが通路を走り回っていた。
「こんな、小さい子、たち、乗ってる?」脇を走り抜けていく子供たちを目で追う。
「ここへ来る手前の星で乗せたんだ」
「兄ちゃん、お帰り!」ロベージやクレスたちが走り寄ってくる。
少年たちは、以前とは見違えるほど生き生きとした顔をしている。
「あれ? こっちの姉ちゃんは誰?」クレスがアニスを見るので「新しい仲間だ」マーティが答えると「そうなんだ。初めまして。俺、じゃなかった、僕、クレスです。こっちは友達のロベージ、ヘンリーとローマンです」
「初めまして!」口を揃えてアニスに声を掛けると「はじめ、まして。アニス、です。よろしく」少し緊張した顔をして答える。
そして、彼女のために用意した部屋へ行くと、ドアの前に世話役の女性が待っていた。
「レジーナ・マリス号へようこそ」
「お世話、なります。アニス、です」礼儀正しく頭を下げるので「まあまあ、こんなにかわいいお嬢さんが仲間になるなんて、嬉しいわ」
「いえ、そんな……」
「さあ、入って。ここがあなたのお部屋よ」
「じゃあ、あとは彼女に聞いて」
「どこ、行く?」
「お客様を待たせてるんだ」
「私、行く」
「いや、アニスはここにいたほうがいい」
「いいじゃないか。彼女も仲間だ。今、どういう状況なのか、知っといたほういい」
「それは少しずつ話していけばいいだろう? まずは、ここに慣れるほうが先じゃないか?」
「私、大丈夫」
「ダメだよ。この中には君の知らないことがたくさんあるんだ。まずは、それから慣れることが先だよ」
「もう、一人、いたく、ない」
「あ……わかった。じゃあ、荷物を置いてくるから、部屋で待ってて」
世話係の女性にはあとで対応してもらうよう言い、ロイたちは自分たちの部屋へ戻って防寒具などを置くと、アニスを連れて作戦会議室へ向かった。




