26 起きていた異変
午後五時。
小さな町に着いた。
「今日はここに泊る。私は仕事で出掛けるから、先にホテルへ行ってゆっくりするといい」
ゴーツリーはホテル前で三人を降ろし、仕事先へ向かうと、ロイたちはチェックインを済ませてそれぞれの部屋に入り、昨日の疲れが取れていないせいか、睡魔に襲われてベッドに横になった。
午後八時。
部屋の電話が鳴った。
「夕飯、時間。一階、食堂、来て」アニスからの電話。
顔を洗って食堂へ行くと、奥のテーブルに座っているアニスが手を振る。
先に来ていたマーティも寝起きの顔をしていた。
「大分くたびれてるようだな」仕事を終えたゴーツリーが、二人のグラスにワインを注ぐ。
「あの中でトライアスロン系の運動をしたんですよ」ロイが向かいの席に座ると「あの中はアスレチックジムみたいになってるのか?」不思議そうに聞いてくるので「まんまと仕掛けに填まって奈落の底に落とされた後、とてつもなく長い氷の階段を上がったんです」
「ハハハッ! ドジ踏んだのか!」
「笑いごとじゃないですよ! もう少しで氷漬けの標本になって、何十年もあの中に閉じ込められるところだったんですから!」
「そうだったのか。それにしては、アニスは元気そうだが」
「地雷を踏んだのは僕らなんです。お陰で両脚、筋肉痛ですよ」
「それは仕方ない。まあ、この肉を食って、精を付けるんだな」グラスを持つと「お疲れ様」
「本当に疲れました」ため息を吐くロイ。
「えらい目に遭ったな」眉間にしわを寄せるマーティ。
そして、ワインを一口飲むロイが思い出したかのように「そういえば、あなたに会いに来た、どこかの星の調査チームの人達がいました」
「あの中にか?」声を潜めて聞いてくる。
「はい。氷漬けにされていました」
「……そうか。やはり門の中に入ってたか……」
「普通の人間にはできないことです」
「ああ、わかってる」
「奴らに情報を提供したという奴が何者なのか、気になるな」話に入るマーティ。
「その何者かが、今回の騒動を起こしてる側と関係があるのかもしれないな」
「その可能性は考えられるね」同意するゴーツリー。「もちろん、断定はまだできないが」
「はい」
「他の門でも不可解な出来事が起きてるかもしれない。第一の門ではどうだったんだ?」聞かれたマーティが「俺は、自分が門の管理者だということ自体知らなかったから、判別できない」と答えると「何だって? そのこと自体おかしいぞ」
「どうおかしいんですか?」ロイが聞き返すとゴーツリーは考え「もしかしたら、正当な門の管理者は他にいた可能性があるな」
「どういうことですか?」
「門の管理者は代々親から子へ受け継がれる。だから、自分が門の管理者だと知らなかったというのなら、正当な管理者に何かあり、その任務を遂行できなくなったので、第二継承者へ引き継がれることになったが、何かの理由でそれが行われなかった。いや、行うことができなかったのかもしれないな」
「では……」
「そうだ。第一の門でも不可解なことが起きてるということだ」
「なんだって? 俺が門の正当な管理者じゃなかったというのか?」
「そうだ」
「……どうなってんだ?」
「細かいことはわからないけど、異変は大分前から始まってたということだよ」考えだすロイ。
「そうなるな」厳しい顔をするゴーツリー。
「では、これから向かう門でも……」ロイがゴーツリーを見ると「ああ、何か起きてることを前提に行ったほうがいいだろう」
「……わかりました」
「さあ、今夜は第二の門を通過したお祝いだ。たくさん食べて疲れを取りなさい」
二人は分厚いステーキに度数の高い蒸留酒、食後のコーヒーをご馳走になると、この日も早くベッドに入った。
翌朝の午前八時。
昨日よりはいくらか脚の痛みが消え、動きやすくなっていた。
ロイが一階にあるカフェでコーヒーを飲んでいると『フワァ、よく寝た』シュールが起きた。『あの階段上りは、さすがにきつかった』
「僕たちの不注意だった。悪かったね」
『そんなことない。あれはしょうがなかったよ。ところで、みんなはどうしたの?』
「まだ寝てるんじゃないか?」
そこへ、アニスとマーティが顔をだした。
「噂をすればなんとやら」
「何のことだ?」向かいに座るマーティに『みんなはどうしたのって聞いたら、二人が来たの』
「起きたのか。疲れは取れたか?」
『うん。もう大丈夫』
マーティたちもモーニングセットを頼み、濃厚なトドのミルクを入れた濃いコーヒーを飲む。
そして、朝一番で仕事にいったゴーツリーが戻ってくると、配送車に乗り込んで出発した。




