17 暖かい部屋
部屋の奥には不釣り合いな木製のドアがあり、ロイたちが来るとドアを開けて、先に入るよう手招きする。
入った先は今までいた部屋と違い、ログハウスのような内装だった。
木製の椅子にテーブル、食器棚が置かれ、床には毛足の短い毛皮が敷きつめられて、奥にある暖炉では炎が立ちのぼり、部屋を温かくしている。
二人は暖炉の前に座り、テッセンが貸してくれた毛布を肩から掛けると、シュールとコストマリーも二人の隣に腰を下ろす。
テッセンは食器棚から木製のスープ皿を取りだし、温めてあるスープを入れると『ほれ、飲みなさい』順番に渡していく。
「おいしい……」一口飲むロイがホッと息を漏らすと「ものすごく濃厚な味だな」初めての味に少し戸惑うマーティ。
『トドのミルクで作ったスープじゃ。栄養満点。すぐに体も温まるじゃろう』
ロイとマーティはスープをお替りして暖炉の火にあたっていると、しばらくして動けるようになってきた。
「それにしても、一時はどうなるかと思った」ロイが貸してもらった毛布を畳んでいると、コストマリーが『申し訳ないけど、テッセンに剣を見せてあげてもらえないかしら』と言うので「そうだった」毛布をシュールに渡し、防寒具の内ポケットから剣を出すとテッセンに見せる。
「短剣の大きさになってますけど、わかりますか?」
『確かにラディウス・ソリッシュじゃ。そうか。あんたが尋ね人か』
「俺のペンダントも見るか?」マーティが一角獣のペンダントヘッドを見せると『確かに、あんたが鏡の泉の門のキーマンじゃな』納得するように何回も頷く。
その後、テッセンはシュールから毛布を受け取ると『ところで、気になっとることがあるんじゃが』ロイを見て『あんたが尋ね人じゃろう?』次にマーティを見て『あんたが第一の鏡の泉の門のキーマン。では、第二の門、すなわち、この氷の炎の門のキーマンはどうしたんじゃね?』
『アーッ! あの部屋に置いてきたんだ!』シュールが思い出すと「どうして一緒に連れてこなかったんだよ!」ロイが言い返すので『それは無理よ』口を挟むコストマリー。『彼女を、あなたたちが落ちた穴に落とせばよかったと言うの?』
「何言ってんだよ。コストマリーたちも落ちてきただろう? いや、そうじゃない。急に現れたんだ」
『そう。私たちの本体はあなたたちが持ってるから、落ちる必要ないのよ』
「本体?」
『剣とペンダントよ。私たちはそれらの守護精霊。戻ろうと思えばいつでも戻れるわ。でも、彼女は違うでしょう?』
「そういうことか」納得すると「そうとなれば早く戻らないといけない。いつまでも一人にしておくのは危険だ」
「爺さん。上にあがるにはどうしたらいいんだ?」マーティが聞くと『お前さんたちはどこから落ちてきたんじゃね?』
「カルブンクルスを持つ、シレーニの像がある部屋だ」
『ホウ、あそこにおったのか。ああ、ラディウス・ソリッシュを持っとったな』
「そういえば、あなたもこの剣のことを知ってるんですよね?」ロイが改めて聞くと『門を守っとる者で、その剣を知らぬ者はおらんよ』
「では教えてください。この剣の持ち主は何者なんですか?」
『なんじゃって?』
「なぜ僕が「尋ね人」と呼ばれるんですか?」




